安倍晋三首相は10月15日の所信表明演説で雇用の拡大と収入を増やすことを改めて訴えた。だが、実際は首相の意気込みとは逆に、安倍政権になってサラリーマンの給料が下がり続けている。安倍首相が本気でサラリーマンの給料を上げるつもりがあるなら、コトは簡単、現行法を使ってもっと効果的に賃上げを実現する方法がある。
給料アップに直結するサラリーマンの政策にはこんなものがある。「有給休暇買い取り制度」の解禁だ。
労働基準法では、入社半年の新人なら年間10日、勤続6年半以上の社員には20日の法定年次休暇が与えられる。「働かなくても給料がもらえる」サラリーマンの権利である。
しかし、サービス残業に追われる世のサラリーマンの多くは有給休暇を満足に取ることができない。厚労省調査では有給休暇の消化率は半分(年間8.6日)にとどまり、連合の正社員調査ではさらに低く、「全く取っていない」が約23%、「10%(2日程度)消化した」が約24%と合わせて半数近くに達する。おまけに、未消化分は毎年積み上げられるのではなく、2年間のうちに消化できなければ時効消滅してしまう。
「どうせ休みが取れないなら、有休を会社に買い取ってもらえば、家族サービスのかわりにせめて妻や子供たちにプレゼントをあげられるのに」
そう思っているサラリーマンは多いはずだが、法定年次休暇の買い上げは1955年の労働基準局長通達で禁じられている。労働強化につながり、労働基準法違反に当たるという理由だ。
相沢幸悦・埼玉学園大学経済経営学部教授がこういう。
「通達が出された当時は高度成長期が始まったばかりで、人手不足から経営者は社員の休暇を買い上げても働いてほしいという時代だった。だから禁止するのはわかる。
しかし、いまや企業は人件費削減に動いており、社員から無理やり休暇を買い上げて働かせようという状況ではない。むしろ社員のほうに、どうせ休めないなら有休を会社に買い上げてほしいというニーズが高まっている。
それなら、有休買い取りを解禁し、労働者からの要請があったときは、企業が正当な対価で有給休暇を買い取るように法律を弾力的に運用すればよい。景気回復には賃上げが必要なのだから、法制度の運用で促すことができるなら積極的にやるべきです」
現在、例外的に退職時や時効消滅分の有給休暇を会社が買い上げることは認められているが、金額に基準はなく、労使で協議して決めることになっている。そのため、会社側から「1日3000円」など最低賃金以下の格安で買いたたかれるケースが多い。これも「高く買えば、社員が休暇を消化しなくなる」という理由だが、できるだけカネを払いたくない経営側の本末転倒なこじつけだろう。
そこで、この際、長く賃下げに苦しめられているサラリーマンの実情にあわせて有休買い取りを解禁し、これを基本給(大卒45歳で日当換算約1万8500円)という正当な対価で買い取らせるようにすれば、サラリーマンは有休休暇を捨てさせられて泣き寝入りしなくて済み、有休未消化が年間10日あれば18万5000円(月額約1万5400円)、有給休暇を1日も取っていない人は37万円(月額約3万800円)もの収入アップになる。
※週刊ポスト2013年11月1日号