カギは「ハイタッチ」と「自虐ネタ」だった。
今季、ボストン・レッドソックスの守護神として大車輪の活躍をする上原浩治(38)の評価がうなぎ登りだ。抜群の制球力を武器に凡打の山を築いたと思えばベンチでも大きな声でチームを鼓舞する。これまでにない日本人像に現地マスコミも驚きを隠さない。MLBアナリストはこう語る。
「日本人選手がまず躓くのが英語の壁。どうしてもチームメイトとの対話が疎かになるのが常だった。でも、上原は積極的。流暢かって? いやいやメチャクチャ下手(笑い)。でも、若い選手に、『俺はもう38歳のおっさん、毎日、登板して疲れたよ。お前らもっとがんばれ』と自分をネタにどんどん話しかけている」
もう一つの名物は強烈ハイタッチである。
チェンジの際などに、チームメイトと交わす恒例行事だが、「ベンチに向かって全速力の上原のハイタッチに負傷者続出(笑い)。『アイツ、気合い入れ過ぎだよ』と怪力揃いのメジャリーガーですら呆れ顔です。ファンたちもこれを真似していまやハイタッチブームです」(同前)。
上原を中心にして回る名門チーム。レッドソックスといえば松坂大輔(33・現メッツ)の古巣だが、昨季までの在籍6年間、こんな光景は見られなかった。
「“1億ドルの男”として騒がれた松坂は入団当初、専属通訳やトレーナーが帯同。周りは日本語しか聞こえません。常に通訳をはさんでの会話では本音も出しづらく、正捕手との信頼関係は最後まで構築できなかった」(在米ジャーナリスト)
信頼関係はサイン交換を見れば一目瞭然。昨季まで、松坂が捕手のサインに首を振るシーンはたびたび見られた。ただでさえ松坂は制球力がないため投球テンポは悪くなるばかり。一方の上原は小気味よいピッチングに定評があり、四球も少ない。「日頃からキャッチャーとの会話ができていて、投げるボールを捕手がわかっているから」と前出のMLBアナリストは評す。
もちろんこうしたコミュニケーションも、何が何でもメジャーで成功したい、という強い意志の表われだ。
「上原がもみ上げを生やしたのもこれまでの日本人選手と差別化したかったから。メジャー入り当初は、日本人というだけで“ダイスケ!”と声も掛けられたこともあり、相当悔しい思いをしていた。ファンやフロントに名前を覚えてもらい、どうしてもメジャーで生き残りたいというギラギラしたものを感じる」(同前)
英語は下手でも構わない。肝心なのはチームやファンに心を開けるかどうか。名門球団に在籍しながら、松坂と上原が成否をわけた理由はそのあたりにありそうだ。
※週刊ポスト2013年11月1日号