激しい内戦の続くシリアでアサド政権が化学兵器を使用した問題が、国際社会を大きく揺さぶった。
国連の安全保障理事会において、シリアに国際管理下での廃棄を課す決議が採択されたが、そこに至るまでの経緯からは、「日本の未来とも密接にかかわる重要なポイントが見えてくる」と指摘するのは、作家の落合信彦氏。以下、落合氏が解説する。
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オバマが「シリア攻撃を決断した。議会の承認を取る」と表明した際に、首相の安倍は「重い決意だと受け止める」とコメントした。
実際には「重い決意」などまるでなく、攻撃は行なわれずに安倍も赤っ恥をかいたわけだが、何でも無条件にアメリカを支持すればよかった時代が終わったことを学ぶいい機会ではなかったか。
目の前の脅威である中国は、尖閣諸島周辺で領海侵入などの挑発を繰り返している。日本では相変わらず、「アメリカは『尖閣は日米安保の適用範囲』と言ってくれたから安心だ」と本気で考えている人が少なくない。
だが、今回のシリア問題の経緯を見れば、仮に中国軍が尖閣上陸を強行しても、オバマは米軍を動かさないだろう。多くのアメリカ人にとって尖閣諸島はシリアよりさらに縁遠い場所だ。その存在すら知らないアメリカ人が大半である。オバマは「議会に承認を得る」と逃げ出し、その間に尖閣は中国に着々と実効支配を進められてしまう。
日米同盟を安全保障の基軸とするにせよ、日本政府には外交・安保の独自の工夫が求められることになる。
とはいえ、安倍にその仕事ができるかは甚だ疑問である。安倍もオバマと同様、軽率な発言で自らの行動を縛る愚行を繰り返してきた。
例を挙げればきりがないが、島根県の制定した「竹島の日」を政府の公式行事にする、靖國神社を公式参拝する、といった目先の人気取りの公約を掲げてしまい、実現への困難にまで気が回らない。発言の一つ一つに軽率さが感じられる。
9月8日のブエノスアイレスでのIOC総会でも同様だった。会見では今後のエネルギー政策について「原子力発電の比率は引き下げる」などと語った。7月参院選での自民党の公約ではまったく触れられていなかったことを、国際社会に約束してしまった。実現へのビジョンがあるとは到底思えない。
IOC総会では2020年の東京五輪開催が決まり、日本中がお祭りムードに沸いた。しかし、私は浮かれた気持ちになれない。ブエノスアイレスでの安倍の“国際公約”は本当に守られるのだろうか?
特に原発問題(放射能は完全にコントロールされていると安倍は言った。しかし、東京電力はそのようなコントロールはなされていないと言った)については、安倍の発言がウソだと見なされれば、それを理由にボイコットする選手や国家も出てきかねない。
※SAPIO2013年11月号