ライフ

1984年生まれ社会学者 周りに家や車買ったという話聞かない

 1990年代前半、モノや金への執着を戒めた「清貧の思想」が大ブームとなった。一見すると、年収300万円でそこそこ豊かな生活を目指す「プア充」は「清貧」と似て見えるが、実は大きく異なると1984年生まれの社会学者・開沼博氏は指摘する。

 * * *
 清貧は豊かな社会と表裏一体の関係にあるものだ。豊かさにあえて抗うことで、自らの理想を追い求め、そこに自由を感じるという生き方である。

 一方、プア充は目一杯働いても経済的に豊かになれないという厳しい現実から出発している。その中でプアという「負」を受け入れ切ることで生活を充実させるというものだ。両者の間には大きな違いがある。

 もちろん見方を変えれば、日本社会の貧困化が進んだことで、「欲得を離れる」「内面生活を充実させる」「お金がすべてではない」といった清貧の基本理念は、結果として違った形でプア充に引き継がれたと言えなくもない。

 私は1984年生まれで、バブル崩壊は小学校低学年の時だった。その後の記憶にあるのは、シャッター街化した商店街、経営破綻したデパートやスーパーといった衰退する一方の故郷の風景だった。「右肩上がりの時代」は遠い過去の歴史に過ぎず、「失われた20年」の時代こそが私たちの世代にとって「生きた記憶」である。

 それゆえ、たとえば、将来の収入をあてにして30年ローンを組んでマイホームを買おうと思ったことは一切ない。東京にいる同世代の友人が車を買ったという話も、よほどの車好きを除けば聞かないし、特に海外旅行をしたいとも思わない。私の世代からみると、プア充的な考え方は身近に感じられ、首肯できる部分が少なくないのは確かだ。

 清貧の思想は戦後の日本社会に少なからず影響を及ぼしたが、プア充という思想の台頭は日本だけでなく世界的な潮流の中で捉えるべきだ。これを私はポスト先進国問題と呼んでいる。
 
 発展途上国が新興国になって、新興国が先進国を目指す。仕事が賃金の安い新興国に奪われ、先進国では貧困が拡大する。未知の領域に踏み込んだ先進国の苦悩がプア充を生んだが、それが人間を幸福にする知恵であるかは、まだ定かではない。

※SAPIO2013年11月号

関連記事

トピックス

九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
“鉄ヲタ”で知られる藤井
《関西将棋会館が高槻市に移転》藤井聡太七冠、JR高槻駅“きた西口”の新愛称お披露目式典に登場 駅長帽姿でにっこり、にじみ出る“鉄道愛”
女性セブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン