「心 志あれば、必ず便宜あり」(意志さえあれば、必ずや道は拓ける)──安倍晋三首相は10月15日の所信表明演説で明治の教育者・中村正直が翻訳した『西国立志編』を引用し、国民に熱く語りかけた。
近年、政権を途中で投げ出す情けない首相たちの顔ばかり見せられてきた国民の中には、“今度の安倍さんならきっとやってくれる”と胸を熱くした人も少なくなかったに違いない。
選挙は向かうところ敵なし、就任10か月でのべ26か国を訪問し、国内にいる時には週末ごとに被災地慰問や視察に飛び回るなど体調にも自信がついたとなると、恐いものなどなくなる。しかし、そういうときに落とし穴が待ち受けている。かつて「僕ぐらいビッグだと……」といって総スカンを食ったタレントがいたが、安倍首相も最近は“尊大”に聞こえる発言が増えているのだという。
所信表明演説の4日前(10月11日)、安倍首相は午後3時半から新聞・通信社の論説委員、次に民放各社の解説委員、そして官邸記者クラブの各社キャップとの3つの記者懇談を立て続けにこなしたが、最初の論説委員との懇談(論説懇)でいきなり弾けた。
「ボクが何をいおうが、悪く書けるはずがない。(批判がある)TPPや消費税(増税)にしても、民主党がやり残した政策だろう。プラスに評価される政策はみんな私がやったことなんだから。そう思わない?」
“いいことは全部オレがやった”という経済政策への自画自賛は首相の十八番なのか、同じ日の夜に出演したBSの報道番組でも、「民主党政権で豊かになったんですか? みんなマイナスじゃありませんか。安倍政権になって有効求人倍率は上がり、経済もマイナスからプラス、年金運用も10兆円増えた。これ以外に道があれば私は教えてほしい」と語った。
※週刊ポスト2013年11月8・15日号