最近、一部の老人ホーム運営者が、長年同じホームで暮らしている入居者を「償却切れ老人」と呼び、理由もなく退去を迫ったことが報じられ、波紋を呼んでいる。
多くの老人ホームでは、入居時に高額の「入居一時金」を支払うことになっている。簡単にいえば、一定年数をそのホームで暮らすための「家賃の一括前払い金」だと考えればいい。その一時金は毎年少しずつ償却され、ある年数を過ぎるとゼロになる。つまり、一定の年数以上をホームで暮らすと、それ以降の家賃は“タダ”になり、入居者側は得をする。
逆にいえば、ホーム運営側は損をすることになるので、そうした入居者を「償却切れ老人」と呼び、施設から追い出しにかかるのだ。
たいていのホームでは、入居契約で「ホーム内で手に負えない病気になった」、「大声や暴力行為で他の入居者に迷惑をかける」といった場合は退去を求められると定めている。そうした条項を利用して、認知症の悪化などを理由に入居者を追い出すケースが少なからずある。そして、ホーム側は新しい入居者を募集し、また入居一時金を稼ごうとするのだ。
そもそも、人生の円熟期にさしかかった高齢者が住み慣れた自宅を離れ、老人ホームに入るのは何のためなのか。それは、自宅での暮らしに不安があり、ホームならば残りの人生を最期まで安心して暮らせると考えるからだ。なのに、「終の棲家」の役割を果たさず、体よくホームから追い出すなど、言語道断である。
老人ホームに必要なこと──それは、認知症になっても笑いながら普通の生活が送れること、そして、たとえ末期がんになっても枯れるまで手厚く看取ってもらえること、その2つに尽きる。「認知症」も「死」も、生の延長線上で、必ず訪れるものだ。「このホームなら大往生できる」という安心なしに、「終の幸せ」はあり得ない。
※週刊ポスト2013年11月8・15日号