大きな波紋を呼んだ『阪急阪神ホテルズ』の“偽装”メニューの問題。同社が展開する東京、京都、大阪、兵庫の8ホテルと1事業部の23店舗で、メニュー表示と異なる食材が47種類あることがわかった。世界的なラグジュアリーホテルである『ザ・リッツ・カールトン大阪』で同様の問題が判明したことも騒動を大きくしたといえよう。同ホテルでは外部に製造を委託していたパンを【自家製パン】、容器詰めのストレートジュースを【フレッシュオレンジジュース】などと表記し提供していた。ホテル評論家の瀧澤信秋氏がこう説明する。
「本来『リッツ』の正規宿泊料金は5万円程度ですが、大阪の場合、大幅なディスカウントをしており、だいたい2万円台で宿泊できるんです。それは、大阪にラグジュアリーホテルがいくつかできたことにも関係しています。
結果、労働環境も劣悪になっていたんだと思います。ぼくの取材では、上から“この予算でなんとかしろ”といった指示があり、現場ではシェフにもプライドがありますから“こんなのはできない”となり、間の支配人やホールスタッフが板挟みになっていたという話も聞きました」
またミシュランでひとつ星を獲得した同ホテル内の中華料理店『香桃』では、芝えびの代わりにバナメイエビ、車えびの代わりにブラックタイガーが代用されていた。
10月26日の会見で、同ホテルのオリオル・モンタル総支配人は、『阪急阪神ホテルズ』の出崎社長と同じく「偽装」を認めず、「ミステイクだ」「トレーニング不足が原因だと考えている」と繰り返した。これに対して車えびの養殖会社『丸山水産』の丸山恭徳社長がこう憤る。
「一流ホテルのシェフが車えびとブラックタイガーの違いがわからなかったらアウトでしょう。見た目が全然違いますから絶対わかるはずです。茶褐色で鮮明な縞模様があり、お腹が引き締まっているのが車えびです。ブラックタイガーは車えびよりも大きく、全体的に青黒い色をしています。
いちばんの違いは鮮度。ブラックタイガーは100%輸入ですから氷のブロックで冷凍されてきますが、車えびは、高たんぱくなえさにこだわり、半年かけて養殖します。そして私たちは、生きたままお客様にお届けしますので、鮮度も味も食感もまったく違うわけです。
私たちはそうやって大切に車えびを育てているのに、一方で車えびといってブラックタイガーを提供していたわけで、それを食べた消費者は“車えびってこういう味なんだ”と思いますよね? 本当に悔しい思いです」
前出のオリオル氏は、世界的なホテルチェーンとして、今回の騒動をグローバルな視点からどう受け止めているかと問われ、「日本特有の問題と受け止めている」と答えた。日本は食材が複雑で、種類も多く、高い品質にこだわっているからという。倉敷芸術科学大学の学長で『食の安全・安心財団』理事長の唐木英明氏はこう指摘する。
「海外、特にアメリカで気にするのはオーガニックかどうか。対して日本では、誰が作ったかを気にする傾向があります。一種のファッションのようになっていて、“作り手の顔が見える食材”なんてキャッチフレーズも流行りましたよね。食材もブランド商品のような感覚になっているんです」
※女性セブン2013年11月14日号