借家か、持ち家か。この永遠のテーマに、多くの人が悩み、そして惑ってきたはずだ。
国土交通省発表の平成25年版「土地白書」によると、国民の意識調査で持ち家を希望する回答が8割を切って79.8%に、「借家でかまわない」と回答した人が調査以来最高の12.5%となり、持ち家にこだわらない風潮が表れてきた。
そしてその調査結果を裏付けるように、若者たちの多くが借家の選択を始めているという。
「新築物件は購入して住み始めたその瞬間から価値が20%下がるといわれています。10年で半値、25~30年でほぼゼロになるんです。住宅ローンを払い終えても、残っているのは価値がゼロの物件だけという場合がほとんどです」(不動産コンサルタント、さくら事務所会長・長嶋修さん)
そんな実情を知ってか、今の20代、30代には、「マイホームなんかいらない」という考え方が浸透しているという。総務省の調べによると、1983年から2008年までの25年間で、30~39才の持ち家率は53%から39%に減っている。賃貸物件で暮らしている人が実に6割にも達しているのだ。
これは、男性でも1、2割という非正規社員の増加といった経済情勢に加え、この世代独特の価値観が生まれたこともその理由だという。好きなときに好きな場所に移動できる、という賃貸ならではの気軽さはもちろんだが、ほかにもある。
マーケティングライターの牛窪恵さんが説明する。
「この世代が重視するのは、コストパフォーマンスです。生まれた時から不景気が長く、世の中に幻想を持たず、上昇志向や物欲も弱い。バブル崩壊後の子供時代、住宅ローンに苦しみ我慢を強いられている親たちを目の当たりにしている。
そんな苦労を背負ってまで所有する理由が見つからない。恋愛でも、自由を犠牲にしてまで維持するのを嫌うように、家を持つ意味がわからないんです。マイホームを持つことは若者にとってただの見栄、とも映っています」
若者の賃貸志向に拍車をかけたのが、2011年3月に起きた東日本大震災だ。地震そのものによる倒壊は少なかったものの、津波によって、多くの家屋が流された。
「さまざまな家が海にのみ込まれ、そして、波が去った後の瓦礫の山々を見て、虚無感に襲われた人も多いでしょう。天変地異にあっては、家などしょせん“砂上の楼閣”にすぎないことを誰もが思い知らされた」(前出・牛窪さん)
経済ジャーナリストの荻原博子さんは、少子化も原因と推測する。1973年に209万人だった出生数は、今は半数近くに減った。一人っ子が当たり前の世の中になっている。
「一人っ子同士で結婚するケースが増えています。そうなると、将来的に両親の持ち家をそれぞれが相続するから、家が1軒余る計算になります。つまり彼らにとって “家は購入するものではなく、親から譲り受けるもの”なのです」
2008年の全国の空き家率は13%。野村総研の試算によれば、このまま少子化が進めば、27年後の2040年には空き家率が40%を超えるという。経済状況、少子化、災害などにより日本人の「家」への価値観は劇的に変わったのだ。
※女性セブン2013年11月14日号