琵琶湖のほとり、滋賀県守山市にあるショッピングモール「ピエリ守山」は、開業時こそ約200店舗のテナントでにぎわっていたが、2013年11月4日現在で営業しているのはわずか4店舗。営業中にも関わらず廃墟のような雰囲気だと評判を呼び、いまや廃墟マニアの間では有名なスポットだ。そのピエリ守山を作家の山藤章一郎氏が訪ね、報告する。
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滋賀県守山市、人口8万人──京都までJRで29分のベッドタウンである。かつては一面のヨシの原、琵琶湖のデルタ地帯だった。
昭和39年に、〈琵琶湖大橋〉が架かり、湖岸道路、ホテル、リゾート施設が林立した。その一画に、Bリゾート施設ができた。つぶれた。びわ湖わんわん王国になった。つぶれた。商業複合施設〈ピエリ〉ができた。つぶれてはいない。つぶれかかっている。
正式には〈琵琶湖クルージングモール〉という。対岸から船で買い物に来られるように〈ピエリ守山港〉という船着き場まである。
田んぼ、高層リゾートマンション、琵琶湖大橋が取り巻く。湖の向こうに比良山系が薄青く連なる。東京ドームの1.7倍の総床面積。駐車場3060台。フードコート750席。200の専門店がひしめいていた。
オープンした5年前、人々が殺到した。ここに向かってくる道路は数キロ先から渋滞し、駐車場に着くまで1時間以上を要した。やっと入れたが、フードコートでまた長い列を並ばなければならなかった。だが、隆盛は一気にしぼんだ。
数キロ先に〈イオン〉〈三井アウトレットモール〉などができ、中軸店舗の〈スーパー・バロー〉が抜けたから。要因はそう取り沙汰されたが、いまは盛衰を振り返る人もいない。「まだやっとるん?」70代半ばの爺さん婆さんの夫婦連れが、駐車場を見渡している。「車、さっぱりおらんね」と爺さん。「がらがら空きね」と婆さん。
脇から声をかけてみた。「初めてですか」
「いや、3年ほど前までは渋滞のなかをよう来ましたよ。今日はね、〈廃墟ツアー〉」
「廃墟ツアー?」
「ネットで騒がれて。どんなことになってるのか。久しぶりに」
メインのB2ゲートのドアに向かう。「開くのか、開かんのか」爺さんが自動ドアに触れた。おもいがけず開いた。一緒に中に入る。
「ひっ」婆さんが息を呑んだ。「なにコレ」爺さんが声をあげた。
左右のはるか先まで広大な空間がひろがっている。上下2層。通路中央には籐製の大きなソファがいくつも配されている。観葉植物もほうぼうで緑の葉を伸ばし、LEDライトが、磨きこまれた通路を冷え冷えと照らしている。BGMが耳を流れる。エスカレーターも動き、正面受付には案内の女性がひとり、廊下の要所にはガードマンが立つ。
だが、ソファにも通路にもエスカレーターにも、右、左、上、下、どこを向いても人はいない。少しいる。爺さん婆さんである。
駐車場から一緒になった婆さんが首を振る。「お父さん、あの人たちも見学ね。でもお店はどこ?」往時200あった店はことごとく消えた。10月末現在、6店舗。194店舗が、逃げだした。
※週刊ポスト2013年11月22日号