国際情報

ケネディ暗殺犯について落合信彦氏「変革に反対する勢力」説

 第35代アメリカ合衆国大統領のジョン・F・ケネディがテキサス州ダラスで暗殺されたのは1963年11月22日のことだった。それからちょうど50年が過ぎようとしている。アメリカの誇りとも言える大統領はなぜ、誰によって殺されたのだろうか? ケネディ没後50年のタイミングに合わせて、『ケネディからの伝言』『二〇世紀最大の謀略 ──ケネディ暗殺の真実──(原題・二〇三九年の真実)』という2冊の文庫を出版する落合信彦氏が解説する。

 * * *
 ジョン・ケネディは1960年11月の大統領選挙に勝利し、翌年1月に大統領に就任した。わずか3年弱の間に成し遂げたことは他の大統領の比ではない。では、アメリカの誇りとも言える大統領はなぜ、誰によって殺されたのだろうか? 結局のところ、ケネディは有言実行の士だったから、変革に反対する勢力から命を狙われることになったのだ。

 ケネディの存在を苦々しく思っていたのが、軍部、CIAなど政府機関、そして企業からなる「軍産複合体」であった。彼らにとっては、戦争がビジネスの根幹だ。平和が訪れることは都合が悪い。ケネディを憎んで当然だった。「軍産複合体」という言葉を初めて公の場で使ったのはケネディの前任であるアイゼンハウワー大統領である。退任直前のお別れスピーチでこう語っている。

「軍産複合体が、不当な影響力を獲得し、それを行使することに対して、政府も議会も特に用心しなければならない。この不当な力が発生する危険性は、現在、存在するし、今後も存在し続けるだろう。この複合体が、我々の自由と民主的政治過程を破壊するようなことを許してはならない」

 軍産複合体は幽霊と怪物をミックスしたようなものだ。CEOはいないしオフィスもない。メンバーシップもない。ただし含まれる企業は膨大である。自動車産業や航空産業、鉄鋼業から飲料・お菓子、タイヤ、葬儀産業まで広範な企業がペンタゴン(国防総省)と契約している。

 そうした企業の大部分は自分たちが軍産複合体の一部とは考えていない。だからゴーストなのだ。そしてその存続が脅かされた時、怪物に変わる。ケネディは、この軍産複合体の虎の尾を踏んだ。ヴェトナム撤退である。

 ケネディが大統領に就任する7年も前のアイゼンハウワー政権時代から、アメリカはCIA主導でヴェトナムに入り込んでいた。54年にフランスが現地から退くと、軍事顧問団(グリーン・ベレー)を送り込み関与を深めた。

 しかし、アメリカが支援した南ヴェトナムのゴ・ディン・ディエム政権は腐敗し、ソ連を後ろ盾にした北ヴェトナムとの戦いは泥沼化しつつあった。ケネディはその状況を問題視し、63年10月31日の記者会見では、「今年の末までに1000人の軍事顧問団を引き揚げる予定である」と表明した。さらに側近たちの証言によれば、65年までに当時1万5000人に膨れ上がっていた軍事顧問団を完全撤退させることも決めていた。

 軍産複合体は焦った。ケネディが言葉を実行に移すリーダーであることは、それまでの3年間で証明されていた。ヴェトナム戦争のエスカレーションは彼らにとって目玉商品だ。それが一人の大統領によって潰されようとしていた。ここで幽霊は怪物へと変わった。暗殺の実行犯が誰で、何をしたかの詳細は『二〇世紀最大の謀略』に譲るが、ケネディ暗殺後に誰が得したかを考えれば、答えの大まかな姿は見えてくる。

 ケネディが暗殺され、その後を継いだのは副大統領のリンドン・ジョンソンだった。彼はケネディが拒否し続けてきたヴェトナムへの正規軍派兵を決定する。そして北爆を開始し、戦争は一気にエスカレートしていった。CIAや軍部の将軍たちは毎日のように正規軍を増やすよう要請し、ジョンソンはそれに応じた。そして一時は55万人ものアメリカ兵が現地に投入された。

 68年、ジョンソンの戦争拡大路線に業を煮やしたボビー・ケネディが大統領選挙に出馬表明するが、予備選中に暗殺された。その年の選挙に勝ったのは共和党のリチャード・ニクソンだった。ニクソンも選挙公約では、ヴェトナム即時停戦を掲げていたが、正式に戦争が終結したのは就任から4年が経った73年。ジョン・ケネディの暗殺からは、10年もの歳月が過ぎていた。

 権力を巡る暗闘は表面をなぞるだけでは真実は見えてこない。だからこそわれわれは、真のリーダーはどのような人物なのか、そうした人物を排除しようとするのはどのような勢力で、どんな手を使うのかを歴史から学ばなければならない。ケネディの死から50年というタイミングで、われわれはもう一度彼の業績とその死の理由に真摯に向き合うべきなのである。

※SAPIO2013年12月号

関連キーワード

トピックス

天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン