阪神ホテルズに端を発した食品偽装問題が全国の一流ホテルや有名百貨店などへと広がっている。消費者や客を裏切る行為であることはもちろん、日々、懸命に食材と向き合い、少しでもいいものを消費者に届けようとする生産者たちの苦労と努力も、同様に踏みにじられたことになる。
阪急阪神ホテルズ系列の中華料理店が昨年9月から提供していた「霧島ポークの上海式醤油煮込み」。ホテル側は、九州南部・鹿児島と宮崎にかかる霧島連山近くの一部地域で飼育されている豚を、材料として求めていた。しかし流通量が少なく、「霧島産」を入手できなかった卸業者は、神戸産の豚肉を代わりに納品していたのだ。メニュー登場以来、一度も「霧島産」は使用されていなかったというのだから、なんとも呆れる。
この卸業者は全国紙の取材にこう答えている。
「40年来の取引先で、注文に応えなければならないと思った。ホテルはコストカットの意識が強く、安い業者が見つかったという理由で突然、取引を打ち切ることもある。『入手できない』なんてとても言えなかった」
さらに驚くべきは「そもそも『霧島ポーク』という豚は存在しない」という当地の生産者の話だ。
「『霧島ポーク』なんてブランドの豚肉は鹿児島でも宮崎でも聞いたことがない。ホテルが客寄せのためにブランド豚に仕立て上げたんじゃないか。今回の偽装騒ぎで鹿児島の黒豚ブランドを傷つけられて、こっちはいい迷惑だよ」(鹿児島県の黒豚生産者)
宮崎県の黒豚生産者は今回の偽装に憤りを覚えると話す。
「24時間、365日かけて一生懸命、汗水垂らして作り上げたブランドに、勝手に乗っかられたんです。“ふざけんな!”って心底思います。
白豚は一度に12頭ほど子を産みますが、黒豚は7頭ほどしか産みません。野性味が強くて気性が荒いうえ、改良されていないので病気に弱く、幼いときに死んでしまうことも多いんです。
私たちは脂の甘味を出すため、穀物ベースの餌にもコストをかけています。飼育に事細やかに気を使わないと、よい黒豚はできないんです」
それは“ブランド”だから高値なのではない。消費者においしい豚を届けるために、丹念に手間暇かけて育てられ、希少性もあるからこそ、高値になる。そんな生産者の努力のたまものである信用を横からかすめ取るようなやり方に、悔しさと怒りに震える生産者が全国にいることを忘れてはならない。
※女性セブン2013年11月28日号