海外の人でも虜にする和食の定番とはなにか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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「和食」の世界無形文化遺産登録を目の前に、さまざまなメディアで「世界遺産企画」が行われている。例えば朝の情報番組では「世界遺産になる和食。果たして外国人にどれだけ受け入れられるのか」という企画を放送していた。つまり外国人と日本人の味覚の違いについて実際に口にしてもらうことで、その違いを浮き彫りにしようという企画で、コメントを求められて一部収録にも立ち会った。
よく海外の人が「苦手」だという和食は何種類かに類型化できる。その多くは「食感」と「香り」に起因する。例えば食感で言えば、外国人が苦手なのは大きくふたつ。「粘り気」と「かみ切れないかたさ」だ。前者が苦手な人は納豆はもちろん、とろろなども苦手で、あのズルズルと引きずるような粘りに得体のしれない気持ち悪さがあるというのだ。外国人の多くは生卵も苦手なように、同じような食感が想起されるという。
「かみ切れないかたさ」はイカやタコなどの刺し身が代表格。とりわけ処理のあまりうまくない、いつまでもかみ切れないようなイカ・タコに当たると「サイアク!」(38歳・アメリカ人男性)だという。もっともこれも調理法次第で、同じイカやタコでも巧みに隠し包丁を入れ、身肉の繊維を断ち切ったものについては「ナニコレ!? オイシイ」と感嘆していたからわからないものだ。
においで言えば「魚の生臭さ」や「発酵臭」が挙げられる。前者はいやな匂いなら、日本人でも苦手な人は多い。ただ後者において、日本人と外国人の差は如実に出る。納豆や漬物のようなわかりやすい発酵臭だけではなく、醤油や味噌などの日本人にとってはなんということのない発酵臭も苦手な人が多い。
ほかにも「おでんのにおいがダメ」「炊けたごはんのにおいがダメ」という例もある。とりわけ時間のたったおでんや、そのどちらも、どことなくすえたような匂いが感じられる。例えば同じ人にもていねいに出汁をひき、決して沸騰させないよう、味を入れたおでんは外国人も喜んで食べていた。ごはんは白飯が苦手な人も多いが、炊き込みごはんや混ぜごはんにするととたんにもりもり食べるようになる。
そしてこれらすべての悩みを解決するのが「焼き目」だ。過去に日本に来たゲスト(確かアメリカ人男性)に、築地場内の名店で魚の一夜干しを食べさせたら、”My best grilled fish!!“と言い残して、帰途につきました。とりわけ好評なのが魚を醤油や酒、味噌や幽庵地などにつけたものだ。
焼くと外国人にとってのイヤな魚や発酵臭が落ち着き、代わりに焼き目で起きた「メイラード反応」や「カラメル化」により、香ばしい香りが漂い、海外の人にとっての苦手な香りをマスキングしてくれる。もっといえばこの「焼き目」こそが、世界中の人々が共通体験を積んできた「旨い」なのだ。外国の方をもてなすのに難しいことをする必要はない。
ここに揚げたいくつかの品を参考に、「これは!」と思った品に焼き目をつける。それだけで身近な「和食」に対する評価は激変するはずだ。ただし、決して焦がしてはならない。それは、料理も人間関係も同じことである。