日本の水道水は世界で一番安全で美味しいと言われ、近隣や水源の環境などから、水道水が美味しいエリアというのもある一方、昨今は都市部の多くで飲用水としてミネラルウォーターなどを購入する家庭が増えている。ライフスタイルの欧米化やトレーサビリティ意識の高まりなどから、飲用水として「買った水」を飲むことは、今や珍しいことではなくなったが、調理の面ではまだまだ水道水を使用するシーンも多いのではないだろうか。
「ごはんや乾麺など吸水が大きい素材を調理する際には、美味しい水を使ってあげることで味に違いが出るといわれています。でも調理に使う水を全部“買った水”にするのはもったいない。そこで、たとえば米を研ぐ1、2回目の水はミネラルウォーター、途中は水道水、最後に浸すのはミネラルウォーターというようにするといいでしょう。煮物、肉をやわらかく煮込むといったときにも水の違いが出やすいですね。
また、料理に使う水で気をつかいたいのがミネラルの含有量。だしの味わいを大切にしたい和食や緑茶を淹れるには軟水、中華料理や洋食、コーヒーや紅茶、中国茶は硬水がいいといわれています。その料理や飲み物の生まれた地域の水の硬度が一番合うということでしょう」とアドバイスするのは、薬剤師の資格を持ち、栄養にも詳しい料理研究家の吉田三和子さん。
「私たちが小さかった頃は、水の選択肢といっても水道水と浄水器の水というくらいでしたが、最近では水道水、浄水器の水、市販のミネラルウォーター、宅配のRO水など、種類も豊富でミネラルなどの内容物や含有量も千差万別。目的や用途に合わせて、上手に使い分けたいですね」(吉田さん)
一般に「ミネラルウォーター類」とされる水は、農林水産省の品質表示ガイドラインによって分類されており、大きな括りとしては「天然水」と「RO水(ボトルドウォーター)」がある。RO水とは、RO膜(逆浸透膜)と呼ばれるフィルターを使用してろ過された水で、通常のろ過では除去しきれない微細な不純物も取り除くので、極めて純度の高い水に仕上がる。また近年では、ろ過した純水にバランスよくミネラル成分を添加・調整した「RO水+ミネラル」が、健康、おいしさに加えて、コストパフォーマンスの高い水として人気だ。
例えば「RO水+ミネラル」の宅配シェア大手のアクアクララの場合、1リットル当たりのミネラル含有量はカルシウム 9.8mg、ナトリウム 5.0mg、カリウム 1.7mg、マグネシウム 1.2mg。日本で好まれる軟水の天然水のミネラル含有量と比較すると、成分をバランス良く加えることによりミネラル分が安定的に保たれる――といったことも特色のひとつだろう。
「自分に合った水選び」を啓発する「水と生活プロジェクト」参画メンバーのひとり、東京医科歯科大学名誉教授・藤田紘一郎先生は、「日本でミネラルウォーターというと、天然水を重用する傾向もありますが、『RO水+ミネラル』も充分“体に良い水”の条件を満たしていると言えるでしょう」と語る。
浄水器や店頭販売のミネラルウォーター、宅配水など多くの選択肢ができた今、数ある水の中から、自分に合った水を選ぶ――“体に良い水の条件”とは、どういうことに気をつければ良いのだろうか。
「人の体は60%以上が水と言われています。水は酸素や栄養素を細胞に運び、有害な老廃物を排泄するなど、生命にとって重要な働きを持っています。水を飲むことは、老廃物を水で流し、新陳代謝を良くするので、まさに、水こそ生命の要。だからこそ、体に良い水を摂ることが大切なのです。
水1リットル中に含まれるミネラル分は30~200mgが目安で、特に100mg以下の軟水の場合、水の味がまろやかで日本人にはおいしく感じます。有害物質が含まれていないことはもちろんですが、水の処理方法としては、煮沸や加熱殺菌すると水の組成が変わってしまうので、非加熱殺菌=生の水である方が良いです。
また、体が疲れるのは、体が酸性に傾いた状態になっているからで、そこへ酸性の水を飲むと疲れを増幅させてしまいますが、弱アルカリ性の水だと中和できます。もう一つ、骨からカルシウムが溶け出すのを抑制するという意味でも、飲むなら酸性より弱アルカリ性の水がおすすめです。活性酸素を抑える抗酸化作用を持った水もいいですね」(藤田先生)