日本の社会は談合や学閥なども存在し、「出来レース」と切っても切り離せないのは事実。公平さが求められるはずのスポーツにおいても、明らかな不平等が散見される。マラソンにおける「ペースメーカー」もそのひとつだ。
マラソン女子金メダリストの高橋尚子氏が、2001年のベルリンマラソンで複数の男性走者に囲まれながら併走し、世界新記録(当時)を出したことを記憶している読者も多いだろう。
ペースメーカーとは、均等なペースで走ることによって、マラソンの先頭集団を引っ張る役割のランナーである。通常、30キロあたりまでレースを牽引し、その後はいなくなることが一般的だ。「ラビット」とも呼ばれ、マラソンレースを陰で支えている。
男女を問わず、主要なマラソン大会では複数のペースメーカーが起用され、大会の成功に欠かせない「好記録達成」を導くための重要な存在となっている。
しかしこれは、視点を変えれば非常に不公平なものだ。これまで数多くのマラソン大会に出場した30代の男子実業団選手がいう。
「常に先頭集団で走るトップ選手には、ペースメーカーの存在はありがたいものでしょう。ペース配分を間違って自滅するリスクは格段に減るし、ペースメーカーを風除けにすることもできる。しかしその恩恵を被るのは、一部のトップ選手のみ。2位集団以降の選手にとっては、トップ選手との実力差を埋めがたくする厄介な存在でしかない。ペースメーカーがいなければ前半で駆け引きをしたり後半粘って上位入賞できたかもしれないのに……と思うレースはいくつもあった」
タイムよりメダル・順位が優先されるオリンピックや世界選手権では、ペースメーカーは起用されていない。「ひとつでも上の順位を」と願う中堅選手からは、上位選手の優勝をサポートする「出来レース製造器」ととられても当然だ。
※週刊ポスト2013年11月29日号