企業のコンプライアンス重視の必要性が叫ばれる昨今、何が問題になるのだろうか。「娘が容姿でバイトを解雇された。このような事態は許されるのか」という質問に対し、弁護士の竹下正己氏が回答する。
【質問】
今夏、17歳になる娘がフランスレストランでアルバイトを始めたのですが、3日目にオーナーより「容姿が店と合わないから、辞めてくれないか」といわれ解雇されました。それからというもの娘は悲しんでおり、親としても納得できません。とにもかくにも容姿の問題での解雇は許されるのでしょうか。
【回答】
解雇は無効です。アルバイトでも雇用契約です。雇用契約に適用される労働契約法の第16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。勤めだして3日目ということですから、試用期間であったかもしれませんが、労働者の容姿は見ればわかることであり、試用してみなければ気が付かなかったとはいえません。
そうすると、雇った後で容姿が気に入らないなどということは、およそ解雇の合理的な理由とはいえませんし、社会通念上相当な解雇とも思えません。したがって、解雇の効力を争うことは可能です。なお未成年者ですから、親が親権者として申し立てることになります。
次に容姿で解雇にできるかですが、そもそも容姿で採用を差別できるかという問題があります。普通の職種ではあり得ないことです。容姿重視の結果、男女の採用条件を別にすれば、雇用機会均等法に違反します。もっとも職種により、容姿が重要な要素になる場合もあるでしょうが、一旦、採用されたことからは、おおむね同種の職種にあって平均以上の条件があると判断したに相違なく、容姿を理由に解雇が認められることはあり得ません。
また採用後、容姿が著しく変化し、その職種に相応しくなくなった場合でも、解雇するには就業規則で定める解雇事由が必要です。不衛生な着衣などの服務規律違反を別にして、容姿自体が悪いことを解雇事由とする例はないでしょう。有期の雇用契約では、更新しない理由に使われる可能性はありますが、大抵の場合は、容姿により働く能力に違いが生じることはないので、それだけでは更新しないことの合理的理由にはならず、認められないと思います。
※週刊ポスト2013年11月29日号