この寒空のもと、七分袖のTシャツとジャージ姿、加えて裸足。身長は185cmにもなる大柄な白人である。
仙台中央署の前を偶然、自動車で通りかかった男性は奇妙なヒッチハイカーと思いつつ、「困っているようだから」と男を乗せた。男が繰り返したのが「タガジョウステーション」。運転手はいわれるまま、JR多賀城駅まで送ったという。
この男こそ後にヘリが出動し、総勢3400人の捜査員が奔走することになる大捕物劇の主人公だ。
ホテル従業員2人への暴行容疑で逮捕され、仙台中央署で取り調べを受けていたドイツ人、シューツ・ペトロ・ウラジミロビッチ容疑者(25)。ホテル側とのトラブル理由はこうだ。
「ホテルでは夜食としてラーメンを無料サービスしていたそうなんですが、『事前にホテル側からその説明を受けておらず食べ逃してしまった』と容疑者が激怒した」(捜査関係者)
逮捕されたのが10月31日。通訳つきの取り調べを受け、逃亡を企てたのが11月13日午後4時頃のこと。ウラジミロビッチ容疑者は、担当の捜査員が取調室から離れた瞬間を見計らい、椅子に括られた紐を解き、同署4階から抜け出したのだった。
ちなみに「タカジョウステーション」に知人がいたわけでもないし(後に、ウラジミロビッチ容疑者は、「タガジョウという発音が耳に残っていただけ」と供述)、土地鑑もない。
ドイツから来日した理由も、「シンポジウムで講演するため仙台にきた」と説明していたようだが、該当のシンポはない。
■取材/小川善照
※週刊ポスト2013年12月6日号