”増税のエンジン”である財務省主計局が毎年3月に発表する資料がある。〈国民負担率の国際比較〉。それによれば、諸外国に比べて「日本の国民負担率は低い」のだという。日本は税金や社会保険料などが安い、「だから日本人はまだまだ負担すべきだ」という論理だが、そこに大嘘が隠されている。
まず最大のまやかしは、国民負担率の比較では国民の「潜在的負担」である借金=毎年の財政赤字が考慮されていないことである。
税金や社会保険料に加え、財政赤字は将来の国民負担にほかならない。その借金分(財政赤字対国民所得比)を合わせた国民負担率を「潜在的国民負担率」と呼ぶ(財務省は一応その数字を出しているが、わざとなのか、わかりにくい図表で発表している)。当然ながら、借金の額は国によって異なるから、負担率を比較する際はそれを含めて考えるのが当然である。
潜在的国民負担率で比較すると、今年公表の最新版では日本53.2%、アメリカ42.5%、イギリス60.4%、ドイツ55.9%、スウェーデン58.9%、フランス69.5%。日本の国民負担率は50%を超え、各国との差は小さくなる。つまり負担はすでに限界に近いのだ。これだけでも「日本は国民負担率が低い」という主張は説得力を失う。
それでも相対的にまだ低いのだから、という理由で「増税の余地がある」とするのも間違いだ。よく知られている通り、国民負担率が高いヨーロッパ諸国は「高福祉」社会であり、国民へ還元される割合やサービス内容が充実している。国際比較するには、それぞれの負担によって「国民へどれだけ還元されているか」という視点が欠かせない。
国立社会保障・人口問題研究所の「社会支出の国際比較(対国民所得比)」が参考になる。社会支出とは、年金や医療、介護、子育てなど各国における社会保障分野への支出のこと。国際比較がある最新の2009年の数字で見ると、日本31.8%、アメリカ24.1%、イギリス31.9%、ドイツ38.1%、スウェーデン43.0%、フランス43.4%となっている。
これらの数字を先ほどの「潜在的国民負担率」と差し引きすれば、「本当の負担率」が見えてくる。
例えばスウェーデンの2009年の潜在的国民負担率は63.9%と非常に高い。しかし、前述の通り43.0%が年金や医療などで戻ってくる。いわゆる「高福祉・高負担」である。100万円の所得のうち64万円取られても、43万円が戻ってきて、残り21万円が政府の運営費(本当の負担率)として使われるというわけだ。
このように各国の「本当の負担率」を計算すると、日本19.2%、アメリカ18.4%、イギリス28.1%、ドイツ19.1%、スウェーデン20.9%、フランス26.9%となる。
立正大学経済学部教授の藤岡明房氏が語る。
「国民負担率を比較するなら『財政赤字対国民所得比』を加えるほうが妥当です。借金分を加えるとSAPIOの試算通り日本と他国との差は縮まる。さらに社会支出比率を国民負担率から差し引くという考え方も、どちらもOECDデータをベースにしているので可能。
この結果から、政府が示している日本の国民負担率がヨーロッパ諸国に比べて低いという主張は根拠に乏しいと言えます。国会でも負担だけでなく、給付も含め、より精緻な負担率を検証した議論をすべきでしょう」
※SAPIO2013年12月号