近年、孤独死が急増し、社会問題化している。中には、死後数日から数週間が経過したようなケースもあり、原状回復には多額の費用がかかることになるが、孤独死した居住者の遺族に清掃費用を請求することは可能なのだろうか? 弁護士の竹下正己氏はこう回答している。
【質問】
アパートを経営しています。先日、部屋を貸していた老人が孤独死。部屋が汚れていたので(体液など)専門の清掃業者に頼むと費用が50万円近くにもなり、遺族に請求しましたが拒否され困っています。こういう場合、清掃費用(リフォームも含め)は、こちらが受け持たなければいけないのでしょうか。
【回答】
建物賃貸借契約上の賃借人の地位は、相続されます。そこで借家人が死亡した場合には、その相続人が賃貸借契約に基づく権利義務を承継し、賃借人になります。賃借人には、借りている部屋を契約の趣旨に従って使用しなければならず、傷つけたり、汚損すると家主に対し、原状回復の損害賠償義務を負います。
孤独死の遺体が放置された結果、室内を汚した場合にも同様です。そこで相続人に対し、原状回復の費用を請求できます。しかし、死亡した賃借人に資産がなければ、相続人は相続放棄をすることになるでしょう。
この場合、相続人への請求はできません。相続放棄は、相続人が相続開始を知って3か月(熟慮期間)以内に家庭裁判所に申し出る必要があります。3か月経過後に相続放棄がないことを確認して請求できます。
ただし、相続人が相続財産は借金を含めて、まったく存在しないと考えて放棄しなかった場合、そのように信じたことが止むを得ないときは、例外的に熟慮期間経過後も相続放棄が認められます。孤独死するくらいですから、遺族とは疎遠であったと思われるので、相続放棄が認められる可能性もあります。
賃貸借契約の保証人がいれば、保証人は賃借人の賃料だけでなく、契約上負担する損害賠償債務なども保証していますので、相続放棄のいかんに拘わらず、保証人への請求が可能です。この建物賃貸借契約の保証人の責任は、更新後も続きますが、長期間の家賃滞納を放置した場合、保証人の責任が制限されると解されています。
あなたが、賃料の支払いがないなど様子がおかしいのに調査せず放置した結果、被害が拡大したとすれば、認められる賠償額は減額されるでしょう。相続人が相続放棄し、保証人もいないとなれば、もはや損害の回収はできないと思います。
※週刊ポスト2013年12月6日号