「きょうはペニーオークションが来てる」──。今年9月、ビートたけし氏は生放送中に、ペニオク詐欺騒動で問題となったタレントを前に、こう言い放った。この発言は大きな波紋を呼び、スポーツ紙などでも大きく取り上げられたが、その真意はどこにあったのか。12月2日に発売される新刊『ヒンシュクの達人』(小学館新書)の中で、たけし氏はこのように解説している。
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「何で、ビートたけしはあんなに言いたい放題・やりたい放題できるんだ」ってよく言われる。こないだ(2013年9月)のTBSの『オールスター感謝祭』だって大変だったよな。いわゆる「ペニオク詐欺」で問題になったタレントが番組に出てるのに「きょうはペニーオークションが来てる」ってオイラが突然生放送で言い始めたもんだから、もうスタジオは大騒ぎだよ。
やっぱりオイラには「正義」とか「正論」みたいなのは向いてない。こうやって、顰蹙モノのバカを言ったりしてるほうが性に合ってるんだよな。だけど、オイラの顰蹙発言にはそれなりの計算というか、考えもある。
ペニオクの件を本人の前で言っちゃったことを「とんでもない」って言う人もいるけど、本当にそうなのか。「それは言わない約束」ってことで、勝手にタブーにしちゃうほうが、かえって本人には辛いんじゃないだろうか。
オイラがやったみたいに、一度「笑い」にして晒し者になったほうが楽なんじゃないか。それが「禊」になるんだよ。そのまま知らんぷりしてたら、そいつらは昔のスキャンダルでずっと悩まなきゃいけなくなる。そもそも芸人、タレントなんてのは「晒し者」になることでカネをもらってる。だから自分の情けない姿やカッコ悪い姿を客が見たいと思うんなら、時にはあえてそういう自分を晒さなきゃいけないという因果な商売なんだよ。
スキャンダルを起こした人たちを、世間の批判に追い打ちをかけていじめてやろうなんて気はさらさらない。弱ってる相手、弱い立場の相手をかさにかかっていじめるのは、とにかく下品だ。オイラなんてスネに傷ある前科者で、サンザン悪いことをやらかしてきたロクデナシなんだからね。
オイラ自身、これまで世間から顰蹙を買いまくってきた身だ。だからこそ「顰蹙の買い方」について、他の人よりよく考えてきたんじゃないかと思う。同じ悪口や暴言を言うにしたって、言い方やタイミング次第で、それは笑いや救いに変わる。言いたい放題だからって、それは決して何も考えずに思ったことをぶちまけているわけじゃない。まァ、大げさに言えば「武器としての顰蹙」とでもいうのかな。いつの間にか、そういったものを身につけられるようになってきたのかもしれない。
※ビートたけし/著『ヒンシュクの達人』(小学館新書)より