国内

警察官僚のための特定秘密保護法 公安は笑いが止まらない

「悪法も法なり」。古代ギリシャの哲学者・ソクラテスはこんな言葉を残している。翻って特定秘密保護法について、『日本の公安警察』(講談社現代新書)の著者でジャーナリストの青木理さんは「法律の体をなしていない、史上かつてない悪法です」と語る。

 それなのに、あるいは、だからなのか、安倍政権は怒号飛び交うなか、数の力で強引に法案を成立させようとしている。いったいこの法律で日本は、私たちの暮らしはどう変わるのだろう。私たちはその恐るべき影響力をもっと知る必要がある──。特定秘密保護法により、国内の一般市民の自由は著しく制限される。青木さんが語る。

「与党が絶対多数だった小泉政権時の2006年にも、国際的な組織犯罪を防ぐ名目で、犯罪を2人以上で話し合っただけで処罰できる『共謀罪』の法案が成立目前になりました。しかし、小泉首相(当時)が自らストップをかけたそうです。『おれは治安維持法を作った首相と言われたくない』と言ってね。今回の法案では、特定秘密の漏洩を共謀、教唆すると処罰の対象になり、安倍首相は小泉元首相以上に危険な道を踏み出しているといえます」

 簡潔にいうと、ここでの共謀とは「秘密へのアクセスについて話し合う」ことであり、教唆とは「秘密を漏洩するよう唆す」ことだ。つまり、公務員だけでなく、一般市民も特定秘密を話題にしたり、「教えてよ」と声をかけただけで逮捕されるかもしれないのだ。しかも秘密の内容が曖昧で、「これでは日本は警察国家になる」と青木さんは警告する。

「防衛や外交分野に一定程度の秘密が必要なことは理解できなくもない。しかし、テロ対策などという名目をつければ、なんでもかんでも秘密になってしまいかねません。原発の警備活動から交番の場所まで、警察に関するあらゆる情報がテロ対策名目で秘密となり得ますから、取り締まりを担う警察はやりたい放題です」

 テロは定義上、<政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要>することまで含まれる。

「つまり、反原発、反消費税、反TPPなどを他人に主張すれば何でもテロリズムになります。食の安全を守ろうとして、『遺伝子組み替え食品反対』の要望書を農水省に持っていくだけで“テロ活動”とされて、処罰の対象になりかねないのです」(青木さん)

 そんなバカな──そう思う読者もいるかもしれない。しかし、そんなバカな目論見こそが、この法案の真の目的だと青木さんは主張する。

「法案を主導した内閣情報調査室は、出向してきた警察官僚のたまり場です。彼らの狙いは、国家秘密を守るのではなく、警察の権益を広げて拡大すること。まさに警察官僚による警察官僚のための法案であり、情報収集を担当する公安警察は笑いが止まらないでしょう」

 公安警察は全国に数万人の人員を擁し、過激派やテロリスト組織、右翼・左翼団体から市民団体まで、国内のあらゆる“反乱分子”を監視、情報収集を行う。

「対象者を一日中尾行して監視したり、微罪逮捕や強引な家宅捜索を繰り返すなど、これまで公安警察の捜査手口は違法スレスレでした。しかし、特定秘密保護法では、政府機関による『情報収集の手法又は能力』を特定秘密としており、公安の捜査手法の隠ぺいに合法のお墨つきが与えられる。これは、政府への批判を一切封殺した戦前の治安維持法そのものです」(青木さん)

 情報漏洩を防ぐため、特定秘密を取り扱う公務員や民間人に行われる「適性調査」という身辺調査も、公安警察の独壇場となる。

「法律上、適性調査は所轄省庁が行うことになっていますが、彼らにはノウハウがないので、公安警察が行うことになるでしょう。対象者の住所、氏名、年齢から酒癖や経済情報、家族の異性関係や性癖まで調べられます。もともと公安警察は重要な情報保持者を徹底的に監視し、女癖や借金といった弱みを握って、彼らが“S”と呼ぶ協力者にすることが得意です。彼らの暗躍により、市民のプライバシーが丸裸にされることは間違いありません」(青木さん)

 しかも、異を唱えようにも、「なぜ」「何のため」に調べるかは特定秘密のため、調査された本人でも、知ることができない恐れがあるのだ。

 12月5日あるいは6日にも参院本会議で強行採決され、可決される見込みが高い。悪夢が現実になる日がやってくる。

※女性セブン2013年12月19日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

すき家がネズミ混入を認める(左・時事通信フォト、右・Instagramより 写真は当該の店舗ではありません)
味噌汁混入のネズミは「加熱されていない」とすき家が発表 カタラーゼ検査で調査 「ネズミは熱に敏感」とも説明
NEWSポストセブン
電話番号が「非表示」や海外からであれば警戒するが(写真提供/イメージマート)
着信表示に実在の警察署番号が出る特殊詐欺が急増 今後危惧されるAIを活用した巧妙な「なりすまし」の出現
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”の女子プロ2人が並んで映ったポスターで関係者ザワザワ…「気が気じゃない」事態に
NEWSポストセブン
堀田陸容疑者(写真提供/うさぎ写真家uta)
《ウサギの島・虐殺公判》口に約7cmのハサミを挿入、「ポキ」と骨が折れる音も…25歳・虐待男のスマホに残っていた「残忍すぎる動画の中身」
NEWSポストセブン
船体の色と合わせて、ブルーのスーツで進水式に臨まれた(2025年3月、神奈川県横浜市 写真/JMPA)
愛子さま 海外のプリンセスたちからオファー殺到のなか、日本赤十字社で「渾身の初仕事」が完了 担当する情報誌が発行される
女性セブン
MajiでFukkiする5秒前(時事通信フォト)
2年ぶり地上波登場の広末涼子、女優復帰は「過激ドラマ」か 制作サイドも“いまの彼女ならなら受けるのでは”と期待、“演じることにかつてなく貪欲になっている”の声も
週刊ポスト
昨年不倫問題が報じられた柏原明日架(時事通信フォト)
【トリプルボギー不倫だけじゃない】不倫騒動相次ぐ女子ゴルフ 接点は「プロアマ」、ランキング下位選手にとってはスポンサーに自分を売り込む貴重な機会の側面も
週刊ポスト
YouTubeでも人気を集めるトレバー・バウアー
【インタビュー】横浜DeNAベイスターズ、トレバー・バウアー「100マイルを投げて沢村賞を獲る」「YouTubeは第2の人生に向けての土台作り」
週刊ポスト
ドバイの路上で重傷を負った状態で発見されたウクライナ国籍のインフルエンサーであるマリア・コバルチュク(20)さん
《ドバイの路上で脊椎が折れて血まみれで…》行方不明のウクライナ美女インフルエンサー(20)が発見、“危なすぎる人身売買パーティー”に参加か
NEWSポストセブン
公開された中国「無印良品」の広告では金城武の近影が(Weiboより)
《金城武が4年ぶりに近影公開》白Tに青シャツ姿の佇まいに「まったく老けていない…」と中華圏のメディアで反響
NEWSポストセブン
女子ゴルフ界をざわつかせる不倫問題(写真:イメージマート)
“トリプルボギー不倫”で揺れる女子ゴルフ界で新たな不倫騒動 若手女子プロがプロアマで知り合った男性と不倫、損害賠償を支払わずトラブルに 「主催者推薦」でのツアー出場を問題視する声も
週刊ポスト
すき家の「クチコミ」が騒動に(時事通信、提供元はゼンショーホールディングス)
【“ネズミ味噌汁”問題】すき家が「2か月間公表しなかった理由」を正式回答 クルーは「“混入”ニュースで初めて知った」
NEWSポストセブン