豪華客船クルーズ。乗客たちが日常を忘れて優雅な一時を過ごす船旅は、乗組員たちのたゆまぬ努力によって支えられている。写真家・稲葉なおと氏が日本の豪華客船「ぱしふぃっく びいなす」の小笠原クルーズ(5泊6日)に乗り込み、その舞台裏を取材した。
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出港後、厨房はすでにフル稼働の状態だ。稼働時間は連日21時間以上。夜明け前の3時から朝食用のパンの仕込みが始まり、夜食の片づけが深夜0時過ぎまで。料理長をはじめ厨房スタッフが400人分の調理と料理の盛りつけに追われる。
一方、客席フロアでは毎晩のように、誕生日や結婚記念日を迎えた乗客への華やかなセレモニーがある。船長、ホテルマネージャーも駆けつけ、ラブソングの合唱とともに、頬を赤く染める2人をスタッフが囲み、記念撮影のフラッシュが何度も焚かれる。
「盛大なお祝いが魅力で結婚記念日には毎年乗っています」(乗客の1人)というように、ここまでのもてなしは、この船独自のものだ。
長い航海の間、乗客を飽きさせない工夫も様々だ。たとえば、社交ダンスもそのひとつ。インストラクターが4人乗船し、昼間のダンス教室では、初心者向けのステップを指導する。夜のダンスタイムには、乗客のお相手は4人から7人に増える。インストラクター顔負けの技量を持つ船長、機関長、パーサーが時間の許す限り毎晩姿を見せるのだ。
船長は、フロア沿いに座る乗客すべてをダンスに誘いつつ、「お客様によって、ワルツが好きな人、タンゴが好きな人とお好みも頭に入れて声をかけるようにしています」(由良和久船長)という。航海士や機関士としての業務を遂行するのは当たり前。客船の乗組員であれば、乗客を楽しませるのも重要な役割なのだ。
撮影・文■稲葉なおと
※週刊ポスト2013年12月20・27日号