日本とドイツはともに第二次世界大戦の敗戦国であり、大きく経済復興したため比較されてきた。似ていると言われる日独だが、際立って異なる性質もある。まったく異質な両国の教育制度について、大前研一氏が解説する。
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ドイツには、最近世界が注目している「デュアルシステム」がある。これは企業での実践訓練を3分の2、パートタイムの職業学校での学習を3分の1、並行して2~3年半行なう二元的(デュアル)職業訓練だ。
1週間に平日が5日間あるとすると、自分が選んだ職種について一定のカリキュラムの下で3日間は企業で研修を、2日間は学校で講義を受ける。義務教育(15歳まで)を修了した若者や「ギムナジウム」(7年制または9年制の普通中等学校)を修了して大学入学資格(アビトゥーア)を取得した若者が対象で、前者の場合は18歳になるまでに少なくとも2年間はプロに実地で教わりながら腕を磨くわけだ。
デュアルシステムには、自動車メカトロニクス工、産業機械工、電気設備工、塗装工などのブルーカラーだけでなく、情報技術者、ホテル専門職、事務系商業職などのホワイトカラーも含めた348もの公認訓練職種があり、それを国・州・企業・労働組合が合わさった公的機関「BiBB(職業教育訓練研究機構)」がきめ細かく運営している。
ドイツでは子供たちの将来の進路について、小学校4年生の段階から能力や適性などを観察しながら指導する。子供たちは、自分はギムナジウムに進んで大学に行くのか、それともデュアルシステムやフルタイムの職業訓練校に進んで手に職をつけるのかということを10歳くらいから考え始め、12歳の時点でいずれかを選択するのだ。
最も人気が高いのはデュアルシステムで、ギムナジウムに進む人との比率は7対3である(同様の教育制度になっているスイスの場合は8対2)。どちらのコースを選んでも生涯給は大きくは変わらないという状況になっているが、実際には、大学進学者よりも18歳で手に職をつけた人のほうが安定した生活を送ることができるようだ。
日本の場合、厚生労働省の発表によると、2010年3月に卒業した新規学卒者の3年以内の離職率が、大卒者31%、高卒者39.2%、中卒者62.1%に達している。しかしドイツでは、デュアルシステムがあるため、就職後すぐに会社を辞めるというのはごく少数だ。
前述したように10歳の頃から将来の進路を学校が指導して子供たちも自分で考え、その後2~3年半にわたって企業で研修しているからだ(最終的に6割の若者が研修した会社に就職)。
つまり若者たちと企業の“お見合い期間”が長いので、日本のような「雇用のミスマッチ」や「ブラック企業」などというものは存在しないのである。また、このシステムがあることでドイツやスイスでは中小企業も優秀な人材を確保できていることは間違いない。
※週刊ポスト2013年12月20・27日号