2013年11月19日、スペインの全国管区裁判所は中国の江沢民元国家主席や李鵬元首相ら元中国政府要人5人に対して逮捕状を出した。容疑は、チベット人に対するジェノサイド(大虐殺)と拷問への関与で、2006年にスペイン国籍の亡命チベット人僧侶、トゥプテン・ワンチェン氏を中心とした人権団体『チベット協会』が中心となり告発していた。
江沢民氏らが実際に逮捕される可能性は、スペインと犯罪者引き渡し条約を結ぶ国に出国した場合を除いて皆無だが、中国政府はこの決定に動揺を隠しきれない。
同月20日に会見を開いた中国外務省はスペインに対し「強い不満」を表明。釈明を求めたことを明らかにしたが、同省のウェブページに会見の内容が掲載されることはなかった。当局の情報遮断により、新華社通信など中国大手メディアも黙殺を貫いたままだ。ワンチェン氏が語る。
「われわれの事務所の近くには、中国総領事館と中国人経営の飲食店があります。ニュースが世界に配信されると、飲食店の中国人から『すぐそこに中国領事館があるから気をつけろ』と警告されました。現在もチベットでは多くの人々が迫害を受けています。ダライ・ラマ法王の写真所持やチベット国旗の掲揚も厳しく禁止されている。法王の写真を携帯の待ち受け画面にしていた子供が警察に連行される事件も発生しています」
※取材・文/路山蔵人(ジャーナリスト)
※SAPIO2014年1月号