今や、オフィスでの分煙は当たり前。喫煙ルームを設置するところも多いが、フロアの隅っこだったり、2フロアごと、1階にしかない、あるいは建物の外にしか喫煙スペースがない、というケースもある。喫煙者が席を立って喫煙しに行くのは、肩身が狭いもの。挙句、「サボり」議論まで出る始末だ。
では、労働生産性ということを考えたとき、喫煙スペースはどこが望ましいのか。
企業経営戦略の視点から、日本的なファシリティ・マネジメントの重要性を提唱するのは、名古屋大学大学院の松岡利昌特任准教授である。ファシリティ・マネジメントとは、建物資産をどう経営していくのか、というアメリカから生まれた概念のことだ。「喫煙スペース」は、「オフィスづくり」の際に欠かせないものの1つ。これを松岡氏は、どう捉えているのだろうか。
「喫煙がコーヒーなどの趣味嗜好の一部と捉えれば、喫煙者にとっては、喫煙はリラクゼーションの一部。そうしたときに、そもそもリラクゼーションに対するスペースの考え方が、日本では十分に議論されてきませんでした」(松岡氏、以下「」内同)
日本では、喫煙スペースどうこうという前に、リラクゼーション空間という考えが遅れているというのだ。
実は松岡氏は2012年、「分煙環境リラクゼーションスペース評価研究会」を立ち上げており、有識者や専門家を集め、調査・分析をしている。コミュニケーションエリアと喫煙ルームが隣接しているところで調査したところ、喫煙者は非喫煙者を巻き込んでおしゃべりし、コミュニケーションの中心になっていることがわかったという。
松岡氏によると、コミュニケーションに積極的な人たちを、例えばフロアの隅っこの「喫煙ルーム」に“隔離”して、コミュニケーションを遮断するのは、会社としては損失になる可能性もある。そういう人たちがもっている、知見やノウハウを受け取るチャンスが減ることになり、知識創造という経営戦略的な観点からは、実に勿体無いことになるのだ。
「喫煙者も非喫煙者もひとりの人間。働いている人たちが、全体としてパフォーマンスをあげることを考えなくてはいけません。いろんな人が共存できる壁のない空間が理想の環境です。これからのオフィスづくりには、リラクゼーションスペースや喫煙ルームの配置がポイントになってくるでしょう。あとは、設備投資をかけて環境を作ることができるかどうかです」
松岡氏らの調査では、喫煙スペースとリラクゼーションスペースは共存できることが証明されている。経営者、およびオフィスづくりを考える側は、“全館禁煙にすべき”“分煙ルームはなるべく隅”などという「排除」の考え方ではなく、「全体としての知識創造」を考える必要がありそうだ。