中国が尖閣諸島を含む空域に「防空識別圏」を設定した。
ところが日本の保守派には、この種の問題で冷静さを欠いた論調が多い。情報より感情が先に立ち、例えば読売新聞は社説(2013年11月26日付)で、〈今回の行動は、東シナ海などを勢力圏として囲いこみ、米軍の接近を拒否する軍事戦略を具現化したものとも言える〉と危機を煽るのだが、本当にそうなら東シナ海だけで識別圏を設定しても戦略的に全く意味がない。
同じ社説では、アメリカのヘーゲル国防長官が、〈日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを改めて強調した〉といういつもの論理で“アメリカが黙ってないぞ”と虎の威を借りてすごむ。これまたミスリードだ。
読売同様に“親米ポチ路線”を是とした小泉政権時代の2005年に、日米両政府は「日米同盟 未来のための変革と再編」という合意文書を作成し、明確に、〈日本は、弾道ミサイル攻撃やゲリラ、特殊部隊による攻撃、島嶼部への侵略といった、新たな脅威や多様な事態への対処を含めて、自らを防衛し、周辺事態に対応する〉と決められた。
同じ合意で日本が米軍に基地や資金を提供することが約束される一方で、アメリカの日本防衛義務を「本土への通常兵器による軍事行動」に限定した“不平等条約”なのである。米軍は尖閣を守る気などない。
中国の行動は受け入れ難い暴挙だが、アメリカを頼んで中国を必要以上に危険視する一部の単純な保守勢力には、短絡的で好戦的な危うさがある。不当な挑発に毅然と正しく対応するためにも、より慎重でインテリジェントな情報収集・分析が求められる。
※SAPIO2014年1月号