病院ではなく自宅で死ぬ──もしあなたが本気で在宅死を望むなら、我が家を“終の棲家”(ついのすみか)へと整える時期は早いほうがいい。高齢者住環境研究所所長で一級建築士の溝口千恵子氏が指摘する。
「元気だと自分では思っていても、足腰は気づかぬうちに弱り、目はかすむ。老いは確実にやってくるものです。わずかな段差につまずいただけで、人生を左右する大ケガを負ってしまうこともあります。そういった衰えを補ってくれるのが住環境なんです。体が弱ってからでは改修の余裕もなくなるので、事前の準備をお勧めします」
中でも、もっとも滞在時間が長くなる寝室は重点的に改修したい。
「足腰が悪くなった場合に備え、寝室は1階にすべき。日当たり、風通しの良いリビングを寝室に改修するケースが多いです。急激な温度変化が招くヒートショックを防ぐため床暖房を取りつけ、開き戸を引き戸に取り替えるなど、体が不自由になったときを想定して改修を進めましょう」(溝口氏)
転倒の原因となる段差は小さなものでもできる限り解消したい。押し入れの一部をトイレにリフォームしたり、自分に合ったマイチェアを用意するなど、実用性はもちろん、生活をしていて飽きないことも重要だと溝口氏はいう。
「老後は足や腰への負担を軽減するため、椅子に座る時間が長くなります。毎日座る椅子は人生の終盤のかけがえのないパートナー。自分の体に合った椅子をこだわって選べば、座るだけで心も弾みます。単調な色使いになりがちな壁紙も、天井だけは自分の好きな色にするなどの遊び心も入れたい。自分が快適に過ごせるように工夫してみましょう」
寝室以外にも改修ポイントは豊富にある。転倒防止の手すりや、段差解消のスロープなどは随所に取り付けたい。
こうした改修には当然費用がかかるが、サポートしてくれる制度もある。要介護や要支援と認定された場合、被保険者ならば介護保険が適用され、実際の住宅改修費のうち20万円までなら、9割を上限に払い戻しが受けられるのだ。
たとえば、便器を和式から洋式に取り替える費用として20万円かかったとすると、18万円が戻ってくる計算になる。適用される改修には制限(※)があるが、ぜひ利用したい制度である。
寝室は元気なうちに改修を進め、介護が必要になってからは、介護保険制度を利用してさらなる改修を──終の棲家づくりは上手に進めていきたい。
【※注】介護保険で住宅改修を適用できる6項目は以下の通り。【1】手すりの取り付け、【2】段差の解消、【3】床又は通路面の材料の変更、【4】引き戸等への扉の取り替え、【5】洋式便器等への取り替え、【6】それらに付帯する住宅改修。
※週刊ポスト2014年1月1・10日号