1983(昭和58)年から3年続けて紅白歌合戦の白組司会を務めた元NHKアナウンサー・鈴木健二さん(84才)が、紅白での思い出を回想した『私に1分間時間を下さい!』(祥伝社/1365円)を出版した。そんな鈴木さんが、当時の思い出、そして紅白歌合戦の歴史に残る名言「私に1分間時間を下さい!」の真実を語った──。
前年に続いて、1984年も鈴木さんは白組の司会に決まった。紅組は女優の森光子さん。総合司会は生方恵一アナウンサー。この年はなんといっても、都はるみが紅白を最後に引退するという話題でもちきりだった。
「はるみさんの最後だから、番組を盛り上げるためにも、彼女には真ん中と最後とで2曲歌ってもらうという案がスタッフから出ました。でも、それには反対しました。1人1曲が紅白の大原則だと私は思ったからです。1曲に全力を傾けて歌うからこそ、素晴らしいショーになる。ただし、最後に拍手喝采、アンコールの声がかかって2曲になるのはかまわないと思う、と私は言ったんです」(鈴木さん、以下「」内同)
結局、鈴木さんは、当日のステージで都が泣くのか、泣くとすれば、どんな泣き方をするのか、司会の森さんは何歩で舞台の袖から中央まで進むか、それに対して自分はどう動くか、といった細かなところまで考え、アンコールの演出プランをひそかに練る。
ただ、どんなに緻密なプランを練ったところで、生放送なのだからその場になってみないとわからない。
幸いなことに、都が歌い終わると客席から自然にアンコールの拍手と声が起こった。「しめた」とばかりにステージ中央に飛び出した鈴木さん。この熱気を冷ましてなるものかと、観客に向かって呼びかける。その中の一言が、「私に1分間時間を下さい!」だった。
「どこからどこまでが1分間なのか、お客さんにはさっぱりわからない。だいたいこの言葉さえとっさの出まかせです。でも、そう言って、歌い終えて涙でしゃがみ込んでいるはるみさんのところへ行って、“あなたがこのまま燃えつきたい気持ちはよくわかります。でも、もう1曲歌うエネルギーが少しでも残っていたら、歌ってください”と言ったのです。私の嘘と真実と計算をまじえたアドリブでした(笑い)」
この年は紅組が優勝、そして「私に1分間時間を下さい!」は新年早々、流行語となって街に流れていった。
※女性セブン2014年1月9日・16日号