臓器移植で海外に救いを求める人がいるのは、日本では手術を受けることが難しいという事情がある。例えば肝臓の場合、日本臓器移植ネットワークに登録して「ドナー」、つまり提供者を待っても、手術の順番が回ってくるまでにゆうに1年以上もかかる。
法律上、「あらゆる内科的・外科的治療を行なっても治癒できないほど、臓器が傷害された」と医師に診断されれば国内で臓器移植は可能だ。しかも保険適用なので、中には自己負担が20万円以下で済むこともある。
問題は圧倒的なドナー不足である。2009年に臓器移植法が改正され、亡くなった本人が生前に臓器提供を拒否する意思表示をしていない場合、親族の同意があれば臓器が提供できるようになった。
その後、移植例数は増加したが、それでも移植希望患者の数に対し、ドナーの数は少なく、1~2年待ちはザラ。腎臓に至っては14年以上も待たねばならない。ドナーが見つかるまで身体が持たず、待機中に亡くなるケースは少なくないのだ。
そんな中、“先立つもの”さえあれば、海外で臓器移植を受けるという選択ができる。ただし、アメリカは高額、中国などアジアなら比較的安価と、地域によって値段はさまざまだ。
特に、2008年に国際移植学会が「移植が必要な患者の命は自国で救う努力をするべき」とした「臓器取引と移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言」を採択して以降、海外の臓器移植費用は異常な高騰を続けている。
日本の国立成育医療研究センターによれば、アメリカでは2007年頃までは心臓などすべての臓器移植は3000万~7000万円だった。それが、2009年には心臓移植を求める日本人の幼児に対し、4億円のデポジットを求められたケースもあった。海外渡航の臓器移植に長年かかわってきた移植コーディネーターが説明する。
「医療訴訟の増加も高騰の要因。手術に失敗した時、医療裁判を起こされ、逸失利益を請求されることを医師側の国際弁護士が想定したことから4億円という高額になった。
さらにいうと、アメリカでもドナー不足は深刻で、カネで優先的に移植を受けている日本人への不満の声が出ていたため、それを黙らせる意味で日本人の移植費用が吊り上げられたという背景もある」
それでも、海外まで行って臓器移植を受ける日本人は後を絶たない。アメリカでは年間およそ20人、中国や東南アジアなどアジア地域では年間50人が手術を受け、移植数は腎臓、肝臓、心臓の順に多いという。
※週刊ポスト2014年1月1・10日号