年が明け、政界では出直し東京都知事選がいきなり本番を迎えている。東京電力の大株主である東京都の知事は原発政策に大きな影響力を持つ。本誌は2013年12月20・27日号で、“小泉純一郎都知事”なら東電株主総会に乗り込むなど、都庁を基盤に「原発ゼロ」政策の実現に動き、原発推進の安倍政治に対抗する軸になりうるという政治シミュレーションを報じた。
だが、実際の知事選では、安倍官邸や自民党執行部も、野党側も「五輪利権の争奪」に頭がいっぱいで、原発是か非かを選挙の争点にしようとしていない。安倍晋三首相自身、12月20日のテレビ出演で、「脱原発は争点にならない」と明言している。小泉氏はこの知事選狂騒曲を内心、忸怩たる思いで見つめているのは間違いない。
それというのも、みんなの党の渡辺喜美氏が小泉氏に都知事選出場を打診し、固辞されたと報じられた(みんなの党側は否定)。BS11元報道局長でジャーナリストの鈴木哲夫氏はこう指摘する。
「重要なのは、両氏が都知事選をめぐって話し合っているということ。小泉氏は、出馬はしなくても都知事選に大きな関心を抱いていることが明らかになったわけです」
実は官邸には、小泉氏が都知事選にむけて水面下で独自の動きをしているという情報が入っている。官邸の情報筋がこう語る。
「小泉さんが細川護熙・元首相と食事した際、原発ゼロを求める国民の声に謙虚に耳を傾けようとしない自民党の姿勢を強く批判し、2人は意見が一致。その後、小泉さんは細川さんに“あなたが出るならオレは応援する”と都知事選への出馬を促したという話が伝わっている」
確かに、細川氏は昨年10月に小泉氏と会談した後、脱原発を主張し、「幕末も薩長土肥が攘夷で一致した」(朝日新聞のインタビュー)と国民運動の必要性を唱えるようになった。事実とすれば、小泉氏は都知事選に脱原発派の独自候補擁立を視野に入れて動いていることになる。
当の細川氏にぶつけると、事務所を通じて、「そういう情報は人づてに聞いているが、直接小泉さんからは聞いていない。本人はいま、襖絵の制作で多忙。アトリエに籠もりきりなので、他に何かをする余裕はありません」と、出馬の意思は否定しながらも、小泉氏の意向が伝わっていることを認めた。
「都知事選は後出しジャンケンが有利。そこで原発ゼロを掲げた候補の応援演説に小泉氏が立つようなことがあれば、まさに小泉劇場の復活です。それだけで政権には相当のインパクトを与えることになる」(前出・鈴木氏)
都知事選は1300万都民に「原発推進か、原発ゼロか」を問いかける前代未聞の住民投票となり、原発推進の安倍政権に匕首(あいくち)を突きつけることになる。
安倍官邸が小泉氏の動向に神経を尖らせて情報収集していること自体、都知事選介入を恐れていることを物語っている。
※週刊ポスト2014年1月17日号