満を持した“本命種馬”の圧勝ムードは、日本で唯一の総理と知事のW経験者である“サラブレッド”の登場で一気に覆された。総理の職を辞して20年、晴耕雨読の日々を過ごす細川護熙・元首相(元熊本県知事)に東京都知事選出馬を促したのは、あの小泉純一郎・元首相。それにしても、細川氏はいつ、“本気”になったのか。
本誌が小泉氏と細川氏の連携の動きをキャッチし、細川氏側に取材した昨年12月24日時点では、細川事務所は小泉氏からの都知事選出馬の打診について、「人づてには聞いている」と認めたものの、出馬そのものは「襖絵の制作で多忙。アトリエに籠もりきりなので、他に余裕はありません」と表向き否定していた。
しかし、実際にはすでにこのとき、出馬準備を並行して検討していたのだ。本誌が細川氏の本気度を確信したのは、1月4日発売号の締め切り後の12月27日、細川事務所から改めて編集部に送られてきた一本のメールだった。
「申し訳ありませんが、お断わりさせていただきます」という、取材を断わる内容だった。
ただし、ここで編集部が依頼していたのは都知事選に関する取材ではない。本誌は前々号のグラビアで、「芸術家・細川氏」とグラビアタレント壇蜜との、陶芸に関する異色対談を掲載した。それに続き、年明けに細川氏が取り組んでいる襖絵の制作を密着取材する企画を申し込んでいたのだ。
ところが、前回の企画は大乗り気だった細川氏が、2回目をキャンセルしてきた。芸術家から「政治家」に戻って都知事選出馬を考えているからではないか──本誌は確信した。
実は本誌に断わりを入れたその日、細川氏は細川内閣の首相特別補佐を務めた盟友の田中秀征氏と会談しており、かつての側近やブレーンと会談を重ねて出馬を真剣に検討し始めていた。
「都知事選は脱原発を有権者に問うまたとない機会だ。他にやるという候補がいないのなら……」
年が明けると、細川氏はブレーンたちに出馬への意欲をにじませるようになっていた。いつ出馬を決断しても短期決戦の選挙に間に合うように、事務所やポスターの手配まで準備を始めたのである。
ところが、そんな細川氏を激怒させたのが、新聞各紙が報じた「民主党が細川氏に出馬を打診」(1月7日)という記事だった。細川側近の1人が語る。
「“殿”は出馬する場合はあくまで小泉さんと一緒に原発ゼロを訴える考えで、原発政策が曖昧で有権者に信用されていない民主党と組む気は全くない。しかし、あんな記事が出れば民主党系の候補と見られて小泉氏も応援しにくくなる。だから民主党の要請を固辞したのに、出馬打診をわざわざリークした民主党のやり方に非常に怒っている」
その後、自民、公明が舛添要一氏相乗りに動くという、細川氏にとって「脱原発」をアピールしやすい状況が生まれていった。
※週刊ポスト2014年1月24日号