安倍晋三首相の靖国参拝をめぐり中韓などは激しい非難を繰り返しているが、実は国内にも火種が潜んでいる。外務省OBの孫崎享氏(元外務省国際情報局長)、天木直人氏(元外務省駐レバノン大使)の2人が緊急対談した。
孫崎:靖国参拝をしたことで、安倍支持の右派グループのなかで変化が起きると私は見ています。日本の右派グループは大きく分けて二つあり、一つは非常にナショナリスティックな民族派、もう一つは対米追随派です。靖国参拝や憲法改正について民族派は支持しても、アメリカの反発があるなら、対米追随派は支持できなくなる。だから、右派グループが股裂きになっていくと見ています。
天木:ただ、財界人や官僚などの保守層、というか支配層の本音は、安倍さん今回はちょっと失敗したな、今日も株価が下がっているぞ、靖国なんかやめとけよということでしょう。アメリカを怒らせたらろくなことがないぞという。
孫崎:安倍首相の本質も、対米追随だと思うんです。アメリカにいわれたことはなんでもするが、他方、国内においては、靖国参拝だ、憲法改正だと、あたかも対米自立派のように振る舞ってきた。ところが、靖国参拝がアメリカを怒らせることがわかり、その矛盾が露呈してしまったわけです。
天木:しかし、いまさら安倍首相は対中・対韓で弱腰の姿勢を見せられないから、方針を変えられない。非常に苦しい状況に追い込まれますよ。もう誤魔化しではどうにもならない。
孫崎:1回行った以上、今年は靖国に行かないというわけにはいきませんからね。
【プロフィール】
●孫崎享(まごさき・うける):1943年生まれ。外務省入省後、外務省国際情報局長、駐イラン特命全権大使などを経て、2009年に退職。著書に『戦後史の正体』『アメリカに潰された政治家たち』など。
●天木直人(あまき・なおと):1947年生まれ。外務省入省後、駐米デトロイト総領事、駐レバノン特命全権大使などを経て、2003年に退職。著書に『さらば外務省!』『さらば日米同盟!』など。
※週刊ポスト2014年1月24日号