「アベノミクス」が始まって1年が経ったが、株価が動くだけで実際の成長は覚束ない状況が続いている。では、世界経済はどう動いていくのか。大前研一氏が「世界経済のプレイヤーの中で、先進国に仲間入りできそうでできない」と話す韓国経済について展望する。
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先進国の定義は「1人当たり国民所得が3万ドル以上」だが、まだ韓国は2万4000ドル台(2013年推計値)で、長く2万ドル台前半から抜け出せずにいる。
韓国は、いわゆる「中進国のジレンマ」に陥っている。成長に伴って賃金が上昇したものの、さらに低賃金の国の労働力によって輸出競争力を失い、その一方でイノベーションができないため、先進国になりきれない状況だ。戦後の日本やドイツはそれをクリアしたが、韓国はその段階から抜け出せないでいる。
韓国が先進国になることは「エンジンを持たない飛行機が飛ぶようなもの」と言われる。現在の韓国のエンジン、すなわち製造機械や工作機械、基幹部品の大半は日本製だからである。韓国は自前のイノベーション能力を持たず、日本の技術や中国の労働力をうまく使ってここまで来た。
かつては日本も欧米の真似をしていたが、石油危機と円高に見舞われた結果、技術力と品質を磨いて勝負できるようになり、トヨタ、ホンダ、ソニーなどが海外でブランドを確立した。1980年頃には、すでに欧米人が日本企業のブランドを20~30は挙げることができるようになっていた。
しかし、韓国はこの状況がなかなか作れない。今も欧米人は韓国ブランドをほとんど言えない。韓国最大の製鉄会社ポスコさえ知っている人は少なく、サムスン電子や現代自動車も日本の会社だと勘違いしている人が多い。
しかも現在の韓国企業は新興国の政治体制と同様に、財閥トップ1人に依存する構図になっている。サムスンの李健熙会長、現代自動車の鄭夢九会長などである。彼らがいなくなった時に成長を持続できるかと言えば、これも難しいだろう。
社員たちも含めて誰もが独善的な体制にはクエスチョンマークを付けているが、財閥内の資本関係が複雑で、経営を近代化するモチベーションもない。独裁的経営者が去った後、「アラブの春」のはずが「アラブの混乱」に陥ったような現象が危惧されている。
飛ぶ鳥を落とす勢いだったサムスンも今がピークだろう。李健熙会長頼みの経営でこのまま成長し続けるとは思えないし、スマートフォンが1台50ドルの時代に突入したら、日本企業より給料が高いサムスンのコスト体質ではやっていけないからである。そうなれば、韓国経済の単発エンジンは推力を失ってしまう。
要するに韓国経済は、まだ財閥万能だった戦前の日本と同じような段階であり、それゆえに「中進国のジレンマ」から脱することができないのだ。
※SAPIO2014年2月号