厚生労働省の資料によると、平成24年10月時点で児童養護施設は全国に589か所存在し、2万9399人もの児童が入所している。ドラマ『明日、ママがいない』(日本テレビ系)はその施設を舞台に、子供目線で描かれているが、初回放送時から存続が危ぶまれるほどの賛否が巻き起こっている。描かれ方や人権の問題もあるが、はたして、児童養護施設の実情はどうなのか?
名古屋市内の児童養護施設に勤務した経験を持ち、現在は、教員や施設職員、地域ボランティアと連携し、障がい児や児童養護施設・里親・ファミリーホームなどの支援を行うNPO法人「こどもサポートネットあいち」の理事長・長谷川眞人さんは言う。
「ドラマでは児童養護施設という名称は使っていますが、描かれているのは実情と違います。私が大学を出て、児童養護施設に勤めた40年も前だったらドラマの施設長のような体罰・暴言、問題を起こしたら全員に一連で責任を負わせてバケツを持たせるということは一部の施設ではあったかもしれません。
でも、いまの時代はあんなことはしません。現代では大学などで専門の資格を持った施設長や職員が採用され、子供の人権を大切にした対応をしていると思います。それに、どこの施設でも、子供の呼び名をドラマのようなあだ名では呼ばないようになってきています」
その背景として、今は施設にやってくる児童が置かれている環境や子供の人権を大切にしているからだと長谷川さんは見ている。
「ここ数年は、親に虐待されて入所してくる児童が多いので、ちゃんと名前で呼んであげようという意味もあるんです。家庭ではなかなか名前で呼んでもらえなかった子供もいるので、本来あるべき家庭環境になるべく近い中で生活できるように呼び名についても気をつけているんです。きちんと名前で呼ばれることで安心して施設内で生活できる。その点だけでも、あのドラマは今の児童養護施設の現状をきちんと捉えられていないと思います」
施設出身者や里子など社会的養護の当事者が、互いに支え合い、当事者の声を発信する『日向ぼっこ』の代表理事を務める渡井隆行さんも同じ意見だ。
「私は小学3年生から高校卒業まで施設に入所していましたが、笑っちゃうくらい児童養護施設とは違うと感じました。ドラマのように、入所している子供たちが別の子供たちの生い立ちや経緯を知っていることはまずあり得ませんよ。職員が情報を流すこともありませんし、子供たちの間でも相手の過去を探ることはタブーでしたよ」
これには、児童養護施設出身の元プロボクサー・坂本博之さん(43才)も口を揃える。 「まず他の子とプライベートな話はしません。いろんな思いを抱えてますから、“何でここに来たんだ?”なんて聞かないし、そういう話自体しません。それに親が迎えに来たり、面会するようなことがあっても、施設が配慮して他の子には見せないようにします。里親に会う時も同じです。子供たちに動揺や不安がないよう配慮しているんです」
※女性セブン2014年2月6日号