競馬学校に「茶道」の授業があることをご存じだろうか。騎手を目指す若者たちに、30年以上にわたり、茶道を通して「心との向き合い方」を教えてきたのが、昨年12月『なぜ競馬学校には「茶道教室」があるのか』(小学館)を上梓した、茶道講師・原千代江さん(写真左)である。
昨年末、原さんは、教え子のひとりで現在競馬評論家の細江純子さんと、千葉県白井市の競馬学校で17年ぶりに再会した。
「私は落ちこぼれだったので、正直、みんなについていくのがやっとで、ここで暮らした3年間のことはほとんど記憶にないんです」と競馬学校での日々を振り返る細江さんに対し、原さんは当時のことを鮮明に覚えていた。
「純子ちゃんは、いつも一番端っこに座っていて、ほとんど声を聞いたことがないくらい、おとなしくて。でも、心の奥に凛とした美しさを持った女の子でしたよ」
細江さんは、「卒業生ひとりひとり、感じ方や、先生から学んだことは違うと思いますが、お辞儀の綺麗さは一緒なんですよね」と語る。
それには理由がある。原さんが授業で最も大切に考えている作法のひとつが、お辞儀なのだ。
「お辞儀が綺麗な人は心も綺麗。どんなこともきちんと正面から向き合い、心を通わせていれば、自然とお辞儀も綺麗になるんです」(原さん)
おもてなしの心、一期一会の大切さなど、原さんの授業から我々が学ぶことは多い。
■細江純子(ほそえ・じゅんこ):1975年、愛知県生まれ。競馬学校第十二期生。2001年に騎手を引退。現在は競馬評論家として活躍。
■原千代江(はら・ちよえ):1947年、新潟県生まれ。裏千家茶道の教授。1982年の設立から現在まで、JRA競馬学校にて茶道を教える。
撮影■国府田利光
※週刊ポスト2014年1月24日号