2011年に全米でベストセラーになり、昨年末に日本語訳版が出版されたのは『寿命100歳以上の世界』(ソニア・アリソン著、阪急コミュニケーションズ)。この本には、寿命を大幅に伸ばす近未来の医療を予見する最先端以上の実例が多数紹介されているが、寿命を延ばすためには、老化をもとから食い止める方法を探す必要がある。それを可能にするのが、遺伝子操作である。
老化を食い止める「サーチュイン遺伝子」の存在は、「長寿遺伝子」として最近知られるようになった。軽い飢餓状態になるとサーチュイン遺伝子が発動し、細胞内にある老廃物などを排除するオートファジーという機構が動いて細胞が若返るという理論である。
「ラットに実験室で通常食から65~70%のカロリー制限をした場合に、寿命が1.4倍に延びたとの報告があります。『腹八分目』の言葉は本当だったということです」(白澤卓二・順天堂大学加齢制御医学講座教授)
しかし、いま進んでいる遺伝子研究は、そのようなレベルに止まらない。若返るどころか、老化システムそのものを除去しようというのだ。
米研究機関のバック・インスティテュート・オブ・エイジ・リサーチのパンカジ・カパヒ博士のチームは、2013年12月に、蠕虫(ミミズやヒルなど蠕動で移動する虫)の一種であるシノラブディス・エレガンスの2つの遺伝経路を微調整することで、寿命を5倍に延ばすことに成功したと発表した。カパヒ博士は加齢には複数の遺伝子の変異が関わっていることを発見した。その2つの遺伝子を操作する相乗効果により、5倍にも寿命が延びたというのだ。
今後は哺乳類でも同様の効果があるかどうか、マウス実験で検証する予定だが、もし人間にも効くとなれば、現在の5倍、すなわち400~500歳まで生きるということになる。それは今後の研究で明らかになるはずである。
これで驚いてはいけない。英ケンブリッジ大学のオーブリー・デグレイ博士は、「今後20年間に1000歳まで生きる人間が出現し、すでに現在生まれている中にも150歳まで生きる人間がいる」と主張している(『寿命100歳以上の世界』より)。
デグレイ博士はコンピュータ科学者から生物医学的老年学者に転向した人物で、人間をプログラミングされた生物機械として捉え、生物工学的手法で老化を防止できると考えている。
その著書『老化を止める7つの科学―エンド・エイジング宣言』には、たとえば、細胞内のリソソーム(不要な物質を消化する小さな構造体)に酵素を加えることで、細胞内に溜まった老廃物を効率よく除去できるなど、老化を止める7つの提言が掲げられている。それらがすべて実現すれば、人間の寿命は1000歳にまで延びるというわけだ。
※週刊ポスト2014年1月31日号