【書評】『ザ・タイガース 花の首飾り物語』瞳みのる/小学館/1575円
【評者】平山周吉(雑文家)
何だ、グループサウンズの元アイドルのタレント本かよ、と甘く見てはいけない。ザ・タイガース再結成にあわせての懐かしの60年代本だろう、と思ったら大間違いだ。かつて武道館での解散コンサートを機に、憎しみをもって芸能界との交渉を絶ったドラマーの「ピー」瞳みのる(長年、慶応高校で漢文と中国語を教えた)が四十年ぶりにバンドに復帰し、自分たちの最大のヒット曲の「ルーツ探索」を綴ったのがこの書だ。
沢田研二ではなく加橋かつみがリードボーカルをとり、作詞は月刊「明星」読者が応募した十三万通から選ばれ、後年、井上陽水など多くのカバーを生んだ名曲を徹頭徹尾解剖する。
メンバーや関係者への取材を重ねるうちに、一九六八年という制作時点の日本に思いをはせ、自分たちの人生にとってのこの曲の重みを自覚するに至る。一旦は訣別した自分の青春をおだやかに受容していく、大いなる和解の書なのだ。
メンバーの中で特に突っ張った二人であった瞳と加橋の、ややぎこちない再会のシーンから物語は始まる。埼玉のライブハウスで聴く加橋の歌に、瞳は聖歌隊の教会音楽の匂いをかぐ。その直観を大事にしながら、戦後日本の文化的風土にも話は拡がっていく。
ハイライトは北海道の小さな町・八雲町まで、原詞者である「19歳の女子学生」を探しに、ひとり足を伸ばすところだ。断片的な情報を手がかりに、彼女の居場所を突きとめる。その過程で「僕たちの音楽がどのような人たちによって支えられ、生まれているかについて」関心をもたなかった若さの無知に気づいていく。原詞者に会うことは叶わないが、電話で話を聞くところまでこぎつける。
昨年末のタイガースの再結成コンサートは、サポートメンバーなしで、自分たちだけで演奏したという。そこに心ならずもアイドルとして人気者になってしまった彼らの、ロックミュージシャンとしての硬派な意地を感じた。それはこの本の感触に直結している。
※週刊ポスト2014年2月7日号