今年7月に解体される現在の国立霞ヶ丘陸上競技場に代わる新国立競技場の建設を巡っては、識者から賛否両論の声が上がっている。
2019年3月完成予定の新国立競技場はイギリスの女性建築家ザハ・ハディドのデザインが採用され、現時点では8万人収容、開閉式の屋根、可動式の客席を備えたスタジアムとなる。総工費は当初、1300億円と予定されていたが下村博文五輪担当相が後に、1692億円になることを明らかにした。
基本設備に疑問を呈し反対の声を上げるのは、建築家で東京大学大学院教授の大野秀敏氏だ。
「総工費があまりにも高い理由は、陸上、球技、興行の三つの多目的施設をめざしているから。そのために、可動席と開閉式屋根の設備を装備している。8万人も集められるようなアーティストの興行のために、それも最大6回しか興行には使えないのに、何故150億もの税金を使って可動屋根を作らなければならないのか。世界の主流が多目的ではなく高水準の単目的だということをわかっているのか」
音楽に詳しいジャーナリストの片岡亮氏も猛反対。
「8万人を集められるイベントの定期開催は無理。維持費に年間38億円と聞いている。これは、史上最大のハコモノですよ」
また基本計画に練習用の全天候型サブトラックが含まれていないことに憂慮を示すのは、日本陸連専務理事の尾縣貢氏。
「そういった競技場では、国際大会、国内の主要大会は開催されないルール。東京五輪での陸上競技場としてのレガシーをここで途切れさせることはあってはならない。単なるレガシーというより『聖地』という思いがある。陸上競技場としての機能を残すことを切に願っている」
少数派の賛成意見も条件付き。五輪終了後の収益面での問題を抜きにすれば、こんな声も。
建築家で東北大学大学院教授の五十嵐太郎氏は「今の完成予想より小さい方がいいのでは」と前置きした上で「あの建物は良くも悪くも目立つ。ざっくりした意味でのランドマークになりうることは間違いないでしょう」と述べる。
まだまだ結論は出そうにないが、くれぐれも競技者を置き去りに“悪目立ち”することだけは避けてほしいものだ。
※週刊ポスト2014年2月14日号