脊髄(せきずい)は脊椎(せきつい、背骨)の中を通る神経で、骨折に伴い断裂や挫滅(ざめつ)を生じる。脊髄損傷は交通事故や高所からの転落、スノーボードなどスポーツの事故、自転車での転倒など、ごく身近なところでも起こる。若い人も多く年間5000人超の新規患者がおり、累積は約10万人と推計されている。頸椎(けいつい)部の損傷では手足の麻痺が、胸椎以下は下半身麻痺が起こり、車椅子の生活になる。
従来の治療は、脊椎が骨折している場合には手術で固定し、その後機能回復を目指し、リハビリを行なう。大量ステロイド療法が行なわれたこともあったが、副作用の問題などで、現在は実施しない方向になっている。札幌医科大学附属病院副院長で整形外科学講座の山下敏彦教授に話を聞いた。
「脊椎損傷で神経が切れたり挫滅すると、神経は回復しないので、障害が残ることが問題でした。そこで神経そのものを再生させるために、骨髄間葉系(かんようけい)幹細胞を利用した再生治療が効果的なことがわかってきました」
神経の再生治療研究については、神経幹細胞やES細胞、iPS細胞で始まっているが、臨床応用へのハードルが高い。同大附属フロンティア医学研究所の本望修教授が中心となり、骨髄間葉系幹細胞での再生治療研究で安全に関するデータを収集している。
骨髄液の中に1000個に1個程度含まれる骨髄間葉系幹細胞は、骨や筋肉、脂肪のほか神経にもなる。この細胞を患者から採取し、細胞培養センターで1万倍に増やし、点滴で患者の体内に戻す。骨髄液の採取と点滴はともに10~15分程度と短時間で終了するため、患者への負担が少ない。
参加条件は脊髄損傷から14日以内で、完全麻痺から重度の不全麻痺がある20歳から64歳までの患者だ。MRIで神経が完全に断裂したと判断された症例と、大量ステロイド療法を実施した患者は除外される。患者から同意書を取得し、腸骨から骨髄液を採取。約2週間培養後に点滴で投与する。遅い人で損傷から54日後に投与することになる。投与は1回で、6か月間リハビリを行ない経過観察する。
脊髄損傷は今まで治療法がなく、画期的再生療法に期待が掛かっている。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2014年2月21日号