政府は昨年12月24日に発表した月例経済報告で「デフレ」という表現を約4年ぶりに削除した。1月末に総務省が発表した全国消費者物価指数(12月分)では生鮮食品を除いた物価(コアCPI)が前年同月比で1.3%上昇。7か月連続で前年を上回ったと報じられた。安倍政権はこれをもってデフレ脱却とし、日本経済は増税に十分に耐えられると言いたいのだろうが、実態は違う。
デフレは「物価が持続的に下落する状況」と定義される。安倍政権の嘘を見抜くためには、まずデフレの何が問題なのかを理解する必要がある。中央大学経済学部教授・井村進哉氏が解説する。
「デフレは商品やサービスの供給に比べて需要が少なくなってしまう状態です。賃金が抑制され、モノの値段が下がる。それに伴って企業の売り上げは落ち、収益は圧迫されて再び従業員の賃金が抑えられる。それで消費が抑制されてまた需要不足が生まれるというスパイラルに陥り、経済がどんどん縮小します。
日本では1998年から賃金がなだらかに下がり続け、企業の投資意欲やサラリーマンの消費意欲が強く抑制されてきました。デフレ脱却とは、そうした負の連鎖の克服を指します」
つまり、単に物価が上がればいいわけではないのだ。物価上昇=インフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」がある。
「目指すべきデフレ脱却(=良いインフレ)とは『商品やサービスの需要が増加する→供給能力を増強するために企業が投資し、雇用を増やす→人材を確保するために賃金が上がる→需要が増える』という好循環を作り出すことです。これをデマンド・プル型のインフレと呼びます。
一方、輸入価格や原材料費が高騰したことで物価が上がっただけの状態がコスト・プッシュ型と呼ばれる『悪いインフレ』です。企業は生産能力を増強できず賃金も上げられないのに、物価だけが上がる。新聞各紙は『デフレ脱却』と報じていますが、これは安倍政権に寄り添った大本営発表であり、実態は『悪いインフレ』が起きているに過ぎません」(井村氏)
※SAPIO2014年3月号