朝日新聞は、従軍慰安婦問題についても靖国参拝問題についても、「中国や韓国が反発している」ということを自らの批判の根拠としてきた。だからこそ、朝日は韓国や中国で起きたこと、発表されたことは、過剰なほど大きく取り上げる。
朝日と両国とは「相思相愛」の関係といっていい。中韓の反日動向を朝日が報じ、朝日の反日記事を中韓が報じる。この相互作用によって、両国の反日は過熱していった部分があるからだ。
たとえば中韓のメディアが靖国参拝を批判すれば、朝日は「『日本、さらに右傾化』首相靖国参拝、中韓各紙が批判」(2013年12月27日夕刊)と、安倍晋三首相の靖国神社参拝の翌日に大きく取り上げる。すると中韓メディアも「朝日新聞は靖国参拝に対する日本の一般市民からの批判の声を掲載した」(中国・人民網)などと朝日の声を紹介した。
さらに12月30日付の韓国・中央日報には、「日本の代表的な知韓派」との触れ込みで若宮啓文・元朝日新聞主筆が登場。「まさか本当に参拝するとは思わなかった。非常に残念だ」との談話が、「日本人の専門家たちは揃って深い憂慮を示した」という記述の後に掲載された。
韓国メディアは朝日が大好きなのだ。韓国大手新聞社のデスクは、その事情をこう説明する。
「韓国メディアは日本の新聞を参考にしたり、抜粋する場合が多々ある。特に、安倍の靖国参拝、NHKの会長の発言など、韓国にとって敏感な話題があるときは、なおさら注目して日本の新聞社の報道を確認する。僕自身がソースとして利用する新聞は、朝日と読売、たまに産経もありますが、歴史問題に関しては圧倒的に朝日が多い。韓国の新聞は歴史問題に関して朝日新聞の論調に近いからです。
もうひとつは、韓国国内で、朝日は日本で一番格調が高い新聞メディアだと認識されているからです。発行部数は読売が多いですが、ジャーナリズムという意味では朝日の姿勢がもっとも忠実だと思います。読売や産経の記事もソースとして利用しますが、論調はあまり参考にしない。やはり朝日です」
中国でも事情は似ている。「日本の出版界で盛り上がる『嫌中憎韓』」──このタイトルの記事が新華社通信で配信されたのは2月12日。「日本のメディアが日本の出版界において『嫌中憎韓』が流行になっていると報じている」と紹介しているのは2月11日付の朝日記事「売れるから『嫌中憎韓』」だ。そのあとは「朝日新聞によると」として全文が翻訳され伝えられている。
この記事の波及のしかたを見れば、朝日と中韓が相互作用によって両国の「反日世論」を煽ってきた実態がよくわかるだろう。
※週刊ポスト2014年3月7日号