米ワシントンDCのホワイトハウスに近いレストラン。ここで日本を巡る熱い議論が交わされたのは安倍晋三首相の靖国参拝(2013年12月26日)から間もない今年1月のことだった。
集ったのはアメリカの最高意思決定機関の一つ、国家安全保障会議(NSC)のアジア担当の現役職員とOBたちだ。これまで彼らが扱うテーマといえば、米国の描く国際秩序をかき乱す中国の国家戦略が主だった。しかし、出席したOBの1人は、「今回のテーマは日本分析だった」と語る。
「そのほとんどは安倍政権に厳しいものでした。なかには、『日本の右傾化を防ぐには歴史教育を徹底させなければいけない』といった批判もあった。これまで中国が日本政府にしてきた批判と瓜二つですよ」
出席した現役職員は強い調子で吐き捨てた。
「安倍晋三は、危険な歴史修正主義のナショナリストだ」
歴史修正主義とは、第2次世界大戦後、米国が中心となって構築してきた世界秩序を否定しようとする動きを指す。安倍首相がその烙印を押された要因は、やはり靖国参拝にある。
安倍首相は靖国参拝について、「A級戦犯といわれる方々を讃えるためではない」という持論を展開する。しかし一方で、「A級戦犯は東京裁判で戦争犯罪人として裁かれたわけだが、国内法的には戦争犯罪人ではない」と語っている。早稲田大学大学院客員教授の春名幹男氏はいう。
「安倍首相は理解していない。中国や韓国が靖国参拝に対して敏感に反応するから、オバマ大統領は厳しい態度を示すわけではない。米国の怒りの理由はもっと基本的な問題にある。東京裁判は米国が主導した裁判であり、戦後の世界秩序を形づくる起点と考えている。『A級戦犯は国内法的には戦争犯罪人ではない』と主張する安倍首相が靖国に参拝することは、突き詰めれば米国が作った戦後体制の否定ということになります」
衛藤晟一・首相補佐官や籾井勝人・NHK会長の失言も相次ぎ、日本への視線は厳しさを増すばかりだ。
※週刊ポスト2014年3月14日号