東日本大震災及び福島第一原発事故の被災地、福島県双葉町では、国の土地買取価格は国と東電が決めた賠償基準は、宅地は震災前の時価、農地(田)は双葉町の場合1平方メートルあたり600~960円と安い金額になっている。だが、東日本大震災の被災地と同様に住民が立ち退きを迫られながら、国が湯水のように買収資金をつぎ込んでいる土地がある。
群馬県長野原町──八ッ場ダムの建設予定地だ。被災者たちはダムの底に沈む八ッ場の土地買取価格を知ると驚愕するはずだ。
本誌が入手した国交省の極秘資料「八ッ場ダム建設事業に伴う補償基準」によると、宅地1平方メートルあたりの買取価格は1等級が7万4300円、最低の6等級でも2万1100円。南相馬市と比べると4倍以上に査定されている。
農地(田)の補償額の格差はもっと大きい。国交省は八ッ場の農地に最低の6等級の田でも1平方メートル=1万5300円と南相馬市の農地の10倍以上の高値を与えている。「6等級の田」といえばいかにも作付けをしているかのように思われるが、実際にその場所を確認すると小石が散乱し雑草が生い茂っている。何年も耕作されていないようにしか見えない荒れ地である。
これは正常な値段の付け方ではない。公示地価を比べると、同じ農業地帯でも典型的な中山間地域の八ッ場より、都市化された南相馬の方が高い。それでも八ッ場の査定が上回るのは、国交省がダム建設反対派地主を懐柔するために八ッ場の買収価格を公示地価の3.5倍へと異常につり上げたからだ。八ッ場での高額土地買収はまだ続けられており、国交省は来年度予算案に99億円を計上している。
八ッ場ダムは関連業者への天下りだけでものべ数百人という巨大利権だ。シロアリ官僚は八ッ場ダムの建設のためには、税金をいくら注ぎ込んでも惜しくない。だが、放射線に汚染されて買収してもうま味がない被災地の土地は逆にカネを惜しんで買い叩こうとする。
この国では、政府や自治体による土地買取費用は、シロアリがどれだけ儲かるかで決まるのだ。
その結果、被災地では家を失いながら、スズメの涙の補償金で新たな家さえ持てない“難民”が増えているのに対し、八ッ場では1戸平均3億円近い補償金がバラ撒かれてダム御殿が次々に建てられている。
※週刊ポスト2014年3月14日号