人が集まり、立場の違い、環境の変化が重なれば諍いや軋轢が生じるのは世の常だ。新聞やテレビから伝わってくるのは美談や感動ばかりだが、現実の被災地からは不協和音も多く聞こえてくる。これも被災地の現実として目を背けてはならない。多くの被災者を受け入れている福島県いわき市の現状をフォトジャーナリスト・いたがき秋良氏がレポートする。
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東北でも温暖な気候で知られるいわき市は33万人の人口を誇る福島県第2の中核都市だ。震災後は福島第一原発事故で被災した2万人以上の長期避難者を受け入れている。その避難者といわき市民の軋轢が漏れ伝わるようになったのは一昨年12月ごろからだ。
2012年12月23日、いわき市役所本庁舎をはじめとする公共施設3か所の柱などに黒いスプレーで書かれた「被災者帰れ」の落書きが見つかった。翌2013年1月9日未明には、双葉郡楢葉町と広野町の避難者計1800人が暮らす仮設住宅などで、停めてあった車7台が何者かに破壊される事件も発生した。狙われたのは避難者のマイカーで、窓ガラスを叩き割られたりペンキがかけられたりしていた。
当時のいわき市長・渡辺敬夫氏が記者団に、「(双葉郡の避難者は)東電から賠償金を受け多くの人が働いていない。パチンコ店も満員だ」(河北新報2012年4月10日)と苛立ちを見せたこともある。そして「いわき市民と避難者の軋轢」という構図が被災各地に伝わるようになった。
いわき市内を取材すると、いたるところで避難者を快く思わない声が聞こえてきた。特に多いのが、歓楽街で遊ぶ避難者に対する憤りだ。
「以前ほどではないけどね。いまだに『俺たちは避難者だから支払いを負けろ』という連中がいるの。飲んで気晴らししたい気持ちはわかるけど、こんな狭い店に大人数で連日のように入り浸ってさ。あの人たち、どうかしてるわよ」
そう話すのは、歓楽街「田町」でスナックを営む40代女性だ。彼女は著者が初見客であるにもかかわらず、怒りにまかせて不満をぶちまけた。
「初めて飲みにきた客(避難者)に、1万円ちょっとの支払いをツケにしてくれと言われたこともあったわよ。『近いうちに賠償金が入るからそれで払う』ってね。常連さんだってそんなことは言わないよ。だいたい、賠償金で飲んだくれてるなんてね。『カネはいらねぇから2度と来んな!』って追い出したわよ」