中国で無差別殺傷事件が相次いでいることについて、中国の情勢に詳しいジャーナリスト・富坂聰氏が指摘する。
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3月14日、中国で再び惨劇が起きた。場所は湖南省の省都・長沙市。日本で報じられた第一報によれば、〈刃物をもった複数の人物が市民に切りつける事件〉だという。直後にインターネット上であふれた投稿情報によると、3人が死亡、1人が重傷を負い、うち2人は無辜の市民だったとされている。
現場では1人が取り押さえられたが、3人が逃走したと伝えられた。
まもなく続報が入り犯人にウイグル族が含まれていたことが報じられたため、日本のメディアは昆明に続く無差別テロではないかと色めきだった。だが、結果は予想に反し商売をめぐるトラブルが原因だと判明。日本のメディアの興味は失われた。
ただ今回の事件が昆明と無関係かといえば決してそうではない。あの事件以降、国内のウイグル族の人々は各地で有形無形の嫌がらせにさらされているからだ。
「ホテルではウイグル族だと分かると宿泊を断るところも少なくないようです。レストランでも公共の交通機関でも同様の反応が出ていて、政府は頭を痛めています」
と語るのは北京の夕刊紙の記者だ。
マレーシア航空機の消息不明事件が起きた直後には、中国のネット上にはウイグル族によるテロ説が飛び交った。このときには、「住民同士が本気で殺し合うような惨劇が自然発生的に起きてしまうのではないかと心配された」(同前)というからただ事ではない。
つまり現在の中国では、普段から存在する小さなトラブルが民族間の問題として先鋭化してしまうことが懸念されている。その意味で長沙の事件は、その象徴とよぶべき事件なのかもしれない。