企業の社外取締役を隠れ蓑にした官僚の巨大な“天下り市場”が出現している。本誌が経団連役員企業を中心に、有価証券報告書などから各省の次官、長官、大使経験者などの社外取締役の選任状況を調べると、財務、経産、外務、法務・検察の有力OBがズラリと並んでいた。
かつて官僚の天下りは個室、秘書、専用車が付いていることが3条件といわれたが、社外取締役は、「仕事は少なく」「実入りは多く」「責任は限定的」という新たな三拍子が揃った天下り先といえる。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が語る。
「社外取締役の仕事は毎月1回程度開かれる取締役会に出席して、経営方針について意見をいうことです」
たとえば、昨年度(2013年3月期)の取締役会の開催回数は三菱重工が年14回、東芝が13回、日立は10回だ。
報酬は高い。各社の有価証券報告書(2013年3月期)などによると、東芝や三菱重工、三菱電機、川崎汽船の社外取締役の平均報酬は1人当たり年間約1000万円で、三菱電機と川崎汽船の社外取締役を掛け持ちする藪中三十二・元外務次官はダブルで報酬を受け取っている。
他より水準が高いのが今野秀洋・元経産審議官と加藤良三・元駐米大使がいる三菱商事で社外取締役の平均報酬は1人1860万円。望月元経産次官のいる日立は1人平均なんと2200万円にのぼる。
年間10回程度の取締役会出席で1000万円もの報酬を得るとなると、彼らの「日給」は実に100万円。プロ野球のスター選手並みである。加えて社外取締役は他の役員より責任が軽い。
会社法では、取締役が忠実義務を怠って会社に損害を与えた場合、損害賠償責任を負わなければならない。だが、それをチェックする立場の社外取締役の免責範囲は広い。
代表取締役の賠償額の上限は年収の6倍なのに対し、社外取締役は「年間報酬の2倍」もしくは「定款で定めた額」とされている。会社の不祥事を見逃しても、「2年分の報酬返上」で済むのである。
※週刊ポスト2014年3月28日号