原発事故の避難者2万人以上を受け入れている福島県いわき市では、避難者と市民との間で様々な軋轢が聞こえてくるようになった。被災者が東電からの賠償金でパチンコ店や歓楽街に出入りすることなどに眉をひそめる住民の声などがあがる一方、避難者の車が傷つけられたりする事件も起きている。この状況について避難民の人々はどのような思いでいるのか、フォトジャーナリスト・いたがき秋良氏がレポートする。
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いわき市の中心部から南東に5kmほどに位置する高久地区の仮設住宅群。仮設住宅の自治会長・茂木茂男さんに話を聞いた。
「車に傷をつけられるなどの嫌がらせも確かにありましたが、去年、花火を撃ち込まれたのを最後に警察を呼ぶようなトラブルは起きていません」
茂木さんは、避難者が嫌がらせを受けた経緯を自らを戒めるように振り返る。
「いわきの知人からも、私たち双葉郡の人間の悪い噂を聞きました。『市内のパチンコ屋や飲み屋が仮設の人で一杯だぞ』とかね。確かに、避難者はパチンコ屋の上得意になっていて、仮設住宅の郵便受けに毎朝チラシが7~8枚も入っているんですよ。飲み屋で『俺たちは避難者だから安くしろ』と言う人間もいるようです。
そりゃあ、いわきの人に嫌われますよね。ただでさえ賠償金のことでいろいろ言われているんだから、事件が起きたのはその結果だったと思います」
こう聞くと、いわき市民との軋轢の原因は避難者側にあるように思えるが、彼らにももちろん言い分はある。仮設住宅の除雪をしていた50代男性に市民との軋轢を聞くと吐き捨てるようにこう言った。
「『広野町は避難解除されたのに、何で帰らないんだ』って学校で苛められる子供もいるんだ。親が子供に吹き込んでんだろうな。妬みもあっぺよ。賠償金のことで」
実は、2012年3月31日をもって避難指定解除された広野町住民への慰謝料支給は一昨年8月で打ち切られているが、それを知らない市民も多い。前出・茂木さんが語る。
「ほとんどの人はちゃんと仕事に就いているんですけどね。今の広野町には病院やスーパーもないし、帰りたくても帰れない人が多いんです。だから、いわきの人に嫌なことを言われたら『すみません、お世話になっています。もう少しここに居させてください』と言ってすぐその場から離れるように言っているんです」
被災者支援団体「みんぷく」代表の赤池孝行さんは言う。
「ベンチに座っていたお年寄りが『相当カネをもらってるんだから早く帰れ』といった暴言を浴びせられることもありました。最近は軋轢も解消しつつあると感じていますが、問題もある。避難者が自分の出身地を隠そうとすることです。避難者と知られると何を言われるか分からない。そんな気持ちがあるのでしょう」
※SAPIO2014年4月号