理系に進む女子学生「リケジョ」が注目されているが、「いやあ、うちの娘は算数がサッパリで」と苦笑いを浮かべる保護者も多いだろう。たしかに女の子は算数・数学が苦手だといわれる。なぜなのか、どうすれば克服できるのか。新学年を控えて算数が苦手な子どもを持つ保護者のために、大手進学塾「SAPIX」教育事業本部本部長の広野雅明氏に取材した。(取材・文=フリーライター・神田憲行)
* * *
--女の子は算数が苦手と言われますが、それは本当なのでしょうか。
広野:うちの塾のトップ層を見たとき、小学4年生までは男女半々でそんなに差異は見られません。ですが5年生になると教室によっては7割ぐらいが男の子になって明らかに男女に開きが出てきます。成績で差がつく主な原因は算数だと考えられます。
--なぜ5年生で差がつくのでしょうか。
広野:私が教室で感じるのは、「割合と比」の単元で女の子がつまずくケースですね。全体の4分の1が何%なのかとか、200の60%はいくらなのかとか。これはなぜかというと、「割合と比」の考え方が小学生の日常生活で出てこないからだと思います。たとえば二つのものを比較するとき「彼女は私よりクッキーを3個多く持っている」とか「個数の差」で捉えて、「彼女は私よりクッキーを1.3倍多く持っている」とは考えませんよね。今までの生活環境の中で存在しなかった概念が「割合と比」で持ち込まれる。
それでも男の子は解き方や方法論さえ頭に入れば、深く納得しなくても馴れで問題をこなせる。ところが女の子はなんでそうなのかという原理がちゃんと自分の中で消化し切れていないと、見よう見まねで解いてみようという感覚がないんです。しっくり来ないから考え込んでしまう。ところが「割合と比」が入ってくると、問題の解き方が根本的に変わってきます。平面図形の問題とか応用範囲も広い。最初の根本がしっかりしていないと、あとが着いていかない結果になります。
--男女で算数の得意・不得意な分野が違うんですね。
広野:生徒に算数の得意・不得意分野についてアンケートを採ったことがあるんですが、顕著な例が「速さ」の問題でした。「速さ」の問題は男子では得意分野の3番目なのに、女子では不得意分野の2番目なんですよ。
というのは「速さ」は単純な旅人算だけでなく、グラフ上を動く点を結んでどんな図形を描けるのかとか、いくらでも複雑な問題ができるからです。複雑な問題に当たったときはいきなり解くのではなくて、とりあえず自分の手を動かして図やグラフを書いて、条件を整理してイメージすることが大切です。高度な問題は「積み重ね」と「ひらめき」が必要なんですが、この「ひらめき」は実際に手を動かしていかないと出てこない。女の子はそこで慎重に構えすぎて、手が動かなくなっちゃうんですね。だからいつまでたっても算数が苦手なままになってしまいます。