【書評】『父の戒名をつけてみました』/朝山実/中央公論新社/1575円
【評者】鳥海美奈子(ジャーナリスト)
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家族が亡くなったとき、多くの人はお寺に払う葬儀費用が高額なことに驚く。お布施に加えて、戒名料も「お気持ち」で渡さなければならない。しかし、初めてであれば相場も段取りもわからないのが一般的だ。不満や疑問を抱えつつも、葬儀社や檀那寺に言われるままに物事を進める人が大半なのではないだろうか。
著者は父の訃報に接し、戒名を自分でつけてみようと考える。本書はそんな出来心が引き起こした、父の葬儀にまつわる1年半の体験を綴ったルポルタージュである。
父は日頃から、「葬式なんかいらん」と断言していた。実家へ向かう新幹線のなかで生前の姿を想いつつ、戒名を決める。きょうだいと話し合い、喪主となった著者は家族葬を行うことにした。それ以外にも、多くの決断を迫られる。父を預けていた介護施設から家まで「御遺体」を運ぶ車をどうするか。棺桶や骨壺、祭壇の花は…等々。それでも何とかすべてを手配し終え、明日が通夜という段になって、いよいよ檀那寺に連絡を入れた。
「戒名は家族で決めた」。
そう告げると、住職は威圧的にこう答えた。
「何を企んでおられるのか」「どんなビジネスにも、立ち入ったらいけない領分というものがある」。
戒名を「ビジネス」と断言したことに著者は大きな違和感を覚える。あげくの果てには、「そんな料簡じゃ、先祖代々もどうなるかわからんよ」と、一家の墓を檀那寺に置けなくなると恫喝してきたのだ。
そこへ複雑な家庭事情も加わり、事態はさらに紛糾していく。父と仲違いしていた兄が遺産総額を5億円と見積もり、そのうち2億円を要求してきたのである。
戸惑い、動揺するばかりの日々のなかで、著者は友人や学者に戒名についての取材を重ねていく。お布施と戒名代をあわせて「100万円」と住職からはっきり金額を提示された人。ブッダの誕生したインドや中国など、他の仏教国には戒名が存在しないこと。さらには日本でも寺の経営が困難な宗派ほど、戒名が高額だという事実も知る。
本書は、一種の葬式ガイドブックのような趣もある。しかしそれ以上に、「親の死を弔うとはどういうことか」を問い続ける著者の姿に、読者の多くは共感することだろう。その文体はおかしみやユーモアに溢れ、一気に読了へと誘う力を持っている。
※女性セブン2014年4月3日号