愛娘・めぐみさん(当時13歳)が北朝鮮工作員によって拉致されて37年。横田夫妻は3月10~14日にモンゴル・ウランバートルで念願だった孫娘・ウンギョン(幼名ヘギョン)さん(26)との対面を果たした。
モンゴルから帰国後の記者会見。横田早紀江さん(78)は、ウンギョンさんとの面会には、ひ孫にあたる生後10か月の女児が同席したことを明かした。
女児が無邪気にハイハイする姿を見て、「めぐみちゃんも同じ頃に(テレビ番組の『ひょっこりひょうたん島』を見ながら)やっていた。その姿が本当に似ていて涙が出た」と早紀恵さんは目を細める。そしてかつての愛娘の姿を思い浮かべながら、こう言葉を詰まらせた。
「その子(めぐみさん)がそこにいないのが一番辛い」
夫妻の胸中を察するに余りある。しかし、今回の面会が呼び水となって、今後の拉致交渉が進展するかどうかは疑問である。
それどころか、今回の面会を「世紀の美談」として演出する官邸サイドの思惑が垣間見えてくる。
「今回の面会は実務担当者と一部の幹部を除き、外務省の誰にも知らされていなかった」(外務省担当記者)
官邸筋によれば、事前に横田夫妻の面会を把握していたのは、安倍晋三首相、菅義偉官房長官らごく一部の閣僚。外務省では実務担当者を除き斎木昭隆次官、伊原純一アジア大洋州局長、小野啓一北東アジア課長のみ。
「主導権は官邸側に委ねられていた。そしてこれらの情報を、官邸は読売新聞にだけリークした。その後、官邸側に都合のいい情報が広まっていった」(同前)
3月16日、読売新聞は他紙に先駆けて、〈横田夫妻・ヘギョンさん面会〉のスクープを朝刊一面で掲載した。紙面には、〈政府内には「近く局長級による公式協議に格上げされる」との観測も広がっている〉と安倍外交の“成果”が綴られている。中国、韓国との軋轢に加えて同盟国・米国の不信を買い、さらにはウクライナ問題での外交無力が指摘される中で失墜していた安倍外交の面目一新がアピールされた格好だ。
そして、そんなムードを待っていたかのように、安倍首相はこうコメントした。
「大変、胸の熱くなる思いがした」
第二次安倍政権発足以降、ことあるごとに「拉致解決はこの内閣で」と口にしてきた責任者としての安堵、そして次なるステップへの自信すら見せたのである。
しかし、2002年10月に帰国した拉致被害者・蓮池薫氏を弟に持つ蓮池透氏は、安倍首相や官邸の“功績”を垂れ流すマスコミ報道に疑問を投げ掛ける。
「12年かかって会えたことは本当に喜ばしい。ただし、今回の面会は一切、非公開とされ、拉致被害の全面解決に向けたやり取りがどの程度進んでいるかが不透明です。めぐみさんの生死について触れることもタブー視されている。マスコミもそのことには触れず、人情話に仕立て上げて騒いでいるだけ。そんな思いを抱いてしまうのです」
※週刊ポスト2014年4月4・11日号