「テロってわけじゃなく、会社がちょっと困ればいいぐらいで。農薬は殺虫剤とかで使うとは知っていた。まさか行く(流通する)とは思わなかったです。ただ、死んじゃった人とか入院した人とかはいなかったんで嬉しかったですよね」
逮捕時と同じ表情にスウェット姿でそう話すこの男は、今年1月、マルハニチロホールディングス傘下のアクリフーズ群馬工場(4月にマルハニチロに統合)が製造した冷凍食品に農薬マラチオンを混入し、逮捕・起訴された同社の元契約社員、阿部利樹被告(49)である。
この事件により、ピザやコロッケなどの冷凍食品640万個が回収され、消費者からの問い合わせは100万件に達した。厚労省によれば、健康被害を訴えたのは2800人超に上る。
前代未聞の「食品テロ事件」を起こした阿部被告はいま、群馬県の太田警察署から拘置所に移送されるのを待っている。彼から小社に手紙が届いたのは、3月のことだった。
〈初めまして、とつぜんのお手紙もうし訳ございません。只今留置所からこれを書いています。(中略)色々ないきさつがあり、犯した事件です。まさかここまで大きくなるとは思わず、会社にも、たいへんな損害を出してしまいました。(中略)私は今毎日、日記を書いています。事件の事→留置所の事→高ち所(拘置所)の事→刑務所と阿部ジョーシさんみたいに本にしてはどうでしょうか?〉
阿部ジョーシとは、『塀の中の懲りない面々』で知られる作家の安部譲二氏のこと。彼は獄中の体験を本にしたいと考えているようだった。手紙はこう結ばれている。
〈接見禁止もとれました。一度お会いしてもっと話をつめてはもらえませんか? お待ちしています。ネットではマラチオン男と呼ばれています〉
そこで本誌記者は阿部被告に複数回にわたり接触。時間や会話内容の制限があるなか、約60分に及ぶ面会を行なったのだった。
※週刊ポスト2014年4月18日号